子どものころの怖い話
隙間人間

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夏休みが明けると、クラスの誰もが彼の事を忘れていた。
先生でさえ、彼の机が空席な事には触れず、九月に入った頃に、いつの間にか彼の机はかたづけられてしまった。
クラスのみんなが薄情だとか言う訳ではなく、元々あまり他の子達と彼が仲良くなかったせいもあり、しかも夏休みという大きなイベントを挟んでしまった事で、皆すっかり忘れてしまったのだろう。
やがて彼の住んでいた長屋も取り壊され、こぎれいなマンションに建て変わった。
こうして、彼がこの町にいた痕跡さえも、消えてしまった。

それでも、僕は彼の事を忘れた事などなかった。
僕の部屋には、彼へのクリスマスプレゼントとして家の両親が飼ってあげたゲームのソフトがいくつもあるし、僕のアルバムは、必ず僕の横に彼が写っていたからだ。
やがて僕は彼がいなくなった事の決着として、彼は隙間人間の世界に行ったと思うようになった。

760 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/05/25(日) 18:04:57.54 ID:XnD3GGsB0.net
そして、思い込むようになってからというもの、徐々に僕にも隙間人間が見えるようになってきた。
ただ、僕には彼のようにいろいろな隙間人間が見える訳ではなかった。
僕にはいつも、彼だけが見えていた。
穏やかな顔をして隙間に挟まっている彼は、とても幸せそうに見えた。

彼は僕にいつも優しく話しかけてきた。
「大丈夫か?辛かったらいつでもこっちにこいや」
僕が悩んでいたり、苦しんでいたりすると、決まって彼はそう隙間から声をかけてきた。

やがて彼年を重ねるにつれて彼を見る頻度は多くなり、彼は建物の隙間だけではなく、本棚の隙間や、机の引き出しの中、列車とホームの隙間などからも顔を見せるようになっていった。
ラッシュアワーにもまれて通勤する時など、よく彼は僕に声をかけてきた。

僕は彼と会う事や、話す事を楽しみにして日々を生きてきた。
三年生の時に友達になった時と同じように、僕と彼はいつも隙間を介して一緒にいた。
僕の行動や言動を気味悪がる人も多かったが、そんな事よりも、彼といつも一緒にいられる事が、僕にとっては何よりも大切な事だった。

でもそんな幸せな日々は、ある日突然終わりを迎えることになった。

761 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2014/05/25(日) 18:07:34.55 ID:XnD3GGsB0.net
一昨日の夜、帰宅した僕はスーパーで買ってきた総菜をつまみにして、発泡酒で晩酌をしていた。
彼も机の上に置いた総菜の蓋の隙間にいて、僕らはたわいもない話しをしながら夜を楽しんでいた。

そのとき、BGM代わりにつけていたテレビのニュース番組で、保険金詐欺を働いていた夫婦が逮捕されたニュースが流れた。
その夫婦は交通事故を偽装して保険金を手に入れたが、些細な事から詐欺が露見したとキャスターは伝えていた。
しかしニュースが態々その事件を取り上げたのは、逮捕の切っ掛けになった保険金詐欺ではなく、その夫婦の余罪を特に取り上げていた。
その夫婦は、過去に自分の子供達を保険金ほしさに殺害し、保険金をせしめた容疑がかかっていると、キャスターは口にした。

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