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和解

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それから暫くして、アリサの母親は亡くなった。
俺とアリサは再びアリサの郷里へと向かった。

602 和解 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/20(火) 04:07:31 ID:LxBD1hJJ0
通夜と葬儀はアリサの実家で行われた。
近所の人と親戚が数名来ただけで淋しい葬儀だった。
お経を上げに来ていたお坊さんが、帰り際、俺に声をかけてきた。
どうしても気になることがあるので、何とか時間を作って寺に来て欲しいと言う。
おれも、このお坊さんに逢った時から何か感じるものがあったので、その日の晩に寺を訪ねた。

俺は葬儀に来ていたお坊さんに案内されて、住職の前に通された。
余り大きな寺ではなかったが、住職には迫力と言うか、物凄い威厳があった。
そこらの葬式坊主からは絶対に感じられないプレッシャーに俺は圧倒された。
住職は俺のことを無言のまま嘗め回すように見続けた。
そして、暫く考え込むと、開口一番、俺に言った。
「お若いの、あんたどこかで宗教的な『行』を齧ったことはないかね?他言はしないから話してみなさい」
俺は驚いたが、この住職は俺の問題解決の糸口になると確信が持てたので、マサさんの元へ行ってからの事を全て話した。
この住職は、中途半端に「行」を齧って「魔境」に落ちた若者を何人も見たことがあるそうだ。
「魔境」は、超能力だの徐霊だのを売り物にして、信者に修業と称して「行」を行わせる新興宗教の信者に多いらしい。

603 和解 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/20(火) 04:08:17 ID:LxBD1hJJ0
住職が例として上げた宗教団体は、そっち方面に疎い俺でも知っている名前がいくつも含まれていた。
☆☆ムや阿★★、☆☆A、★★★光、etc・・・
住職の話によると、以前マサさんにも言われたように、『行』には、一定の法則に従った身体や精神の操作技法と言う側面があるらしい。
あくまで「技術」だから、法則に則った「行」であれば、生理的反応として、ある程度の「験」を得ることは比較的容易らしい。
住職は俺に蝋燭の炎を回転させたり細長く伸ばしたり、リズミカルに伸び縮みさせるといった「念力」を見せてくれた。
住職曰く「やり方さえ理解できれば、子供でも3日で出来るようになる宴会芸」だそうだ。
「霊感」を身に付け、人には見えないもの(霊の類)が見えるようになると言った程度なら誰でも比較的短期間で身に付くそうだ。
また、そういったレベルなら「修行」などしなくても、何かの拍子に目覚めてしまう事も少なくないということだ。
ただ、先天的にそういった力や素養を持っている人は、「本能」として対処しているのでさほど問題はないが、「行」は非常に危険なものらしい。
「験」ないし「力」は、霊魂や魍魎にとっては「暗闇の中の篝火」のようなもので、そういった「悪いもの」を引き寄せるのだそうだ。
素養のない者が「行」を行い、「験」や「力」を得ることは、無防備のまま「悪いもの」に身を晒すことに他ならない。
持つべきでない「力」に翻弄され、「悪いもの」に取り込まれた状態を住職は「魔境」と称しているようだ。
「魔境」に陥るのを避け、そこから脱するには「功徳」を積み、より高い「行」を積む必要があるらしい。
その為には「出家でもするしかないだろうな」ということだ。

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