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和解

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アリサが眠る横で、俺はスタンドの灯りで雑誌を読んでいた。
すると突然、猛烈な眠気が襲ってきた。
「来たな!」と思って、俺はマサさんに習ったやり方で「気」を「拡げて」、アリサと自分を包むようにイメージした。
すると、「コロコロ」と変わった鈴の音が聞こえてきて、視線を上げた俺の前には、50代半ば位の髪の長い女が立っていた。
感じた雰囲気から、俺はその女を生霊だと確信していた。
以前、Pの実家のラブホテルの一室で、俺に切りつけてきた女と同じ「生々しさ」を感じたからだ。
女は俺のことが目に入らないかのように、アリサの眠るベッドを覗き込んでアリサの頬に手を触れた。
俺は「拡げた」気の力を最大限にした。
その瞬間、女の生霊はフッと消え、俺は叫び声を上げていた。

591 和解 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/20(火) 03:04:36 ID:LxBD1hJJ0
アリサも俺の声に驚いたのか、目を覚まし、ベッドの上で身を起こして俺の方を見ていた。
俺はたった今見たものをアリサに伝えた。
鈴の音、50代半ば位の髪の長い女、女の顔立ちの特徴、左目尻の少し大きめの泣き黒子・・・
それが多分、生霊である事、更に鼻の奥に微かに感じた消毒薬の匂い・・・生霊の主は病院にいるかもしれないこと・・・
アリサはポツリと答えた「多分・・・私の母です」
アリサは俺に自分の過去を話し始めた。

アメリカで生まれたアリサは8歳までアメリカ、12歳までシンガポールにいた。
父親の仕事の関係だった。
中学校進学時に帰国。母方の祖母の元に身を置いた。
祖母の元には、先に帰国して日本の高校に通っていた兄がいた。
帰国子女としての英語力への過信から入試を楽観視していた兄は、大学受験に悉く失敗し浪人する事になった。
忙しくて不在がちな両親の元、家庭内でしか日本語を話していなかったアリサには日本語でのコミュニケーション能力に少々難があった。
女性的な外見もあってか、中学時代のアリサには友人と呼べる者は居らず、いじめを受け続けていたらしい。
しかし、アリサを決定的に傷付けたのは兄と母親だった。
思春期となり、女性としての性意識と自分の肉体のギャップに苦しんでいたアリサに、受験ノイローゼなどが原因なのだろうか、兄は虐待を加えるようになったのだ。
翌年、再び受験に失敗した兄のアリサへの暴行はエスカレートする。
兄の2浪目の夏、アリサの母親は日本に帰国してきた。
アリサの父親との離婚が成立したのだ。

592 和解 ◆cmuuOjbHnQ sage New! 2007/11/20(火) 03:05:11 ID:LxBD1hJJ0
アリサにとって家庭にも学校にも居場所はなかった。
学校ではいじめられ、家では兄による虐待が続いていた。
祖母は外見が少し日本人的でなく、女性的なアリサを疎ましく思っていたらしく、兄の暴行を見て見ぬ振りしていた。
また、祖母と同様、母親も兄を溺愛しており、アリサには余り関心を示そうとはしなかった。
アリサの精神は崩壊寸前だった。
それに止めを刺したのが母親だった。
兄とアリサの現場を目撃した母親は、虐待を加えていた兄ではなく、被害者であるアリサを激しく叱責したのだ。
中学2年の3学期からアリサは学校へ行かなくなり、進学先も決まらぬまま中学卒業を迎えた。
そして、17歳の時、アリサは家を出た。
大学を中退した兄が帰ってくると聞いたからだ。
今度こそ守ってもらえる、自分が出て行くのを止めてもらえると期待して発した「家を出る」と言う言葉に、母親はこう答えたと言う。
「そうしてくれると助かる。もう帰ってこなくていいから」
母親は実家から離れた所にアパートを借り、かなりの額が入った預金通帳をアリサに渡すと一切自分から連絡を取らなかった。
アリサは18歳になるのと同時に、郷里を離れ、きょうこママの店で働き出した。
兄が帰ってくると聞いて、恐怖で頭が真っ白になった状態で駅のホームに立ち尽くしていたアリサに、旅行中のきょうこママが声を掛けていたのだ。

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