心霊良い話
手を引っ張るモノ

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そしてそれからも度々同じようなことが起こりました。山へいった子供が、
あるいは崩れてきた土に潰され、あるいは川に流されて、その命を落としてしまうのです。
みんながみんな助からなかったわけではなく、中には山で迷いながらも無事に戻ってくる子もいました。
しかし彼らはみんな、口をそろえてこう言います。
「山の中を歩いている時、誰かに手を引っぱられた」
そして彼らの右手首には、決まって手の形をしたアザがあるのです。
もしかしたら、先に行方不明となった女の子の崇りなんじゃ?
いつしかそんな噂が町に広まり、大人たちで話し合った結果、
最初の男の子が犠牲となった崖の近くに小さな祠とお地蔵様を置いて、崇りを鎮めようとしたのでした。

674 3/12 sage New! 2009/10/05(月) 16:14:40 ID:9IzgCcHu0
「けど崇りは鎮まらないでね。今でもたまに悪い子がいると、手を引いて山へ連れてっちゃうんだよ」
祖母はおどけた調子でそう締めくくりますが、私は怖くて何も言えませんでした。
私は祖母に祠のことを訊いただけで、誰かに手を掴まれた、とは言っていません。
とても気味が悪く、こういう時に限って周りがとても静かに感じます。
けれど怖がっていることを悟られたくない私は平気なふりをしつつ
「その後、誰かが連れていかれたことはあるの?」とか「連れて行かれた子は悪い子だったの?」
などとしつこく祖母に尋ねます。
祖母は笑って、
「そんなに気になるなら、今晩の宴会にくる伯父さんに訊いてみなさい。
伯父さんは昔、山で手を引かれたことがあるんだよ」
と言いました。

675 4/12 sage New! 2009/10/05(月) 16:15:40 ID:9IzgCcHu0
その晩。一族が集まっての宴会に、伯父さんもちゃんと出席していました。
私は祖母に言われたとおり、伯父さんに『手を掴まれた』時のことを訊いてみました。
思えばこれが間違いだったのです。
伯父さんはその手の話をとっても好み、さも恐ろしげに語って聞かせるのが大好きでした。
「いいか。あの祠に近付くとな、あの山で遭難した女の子とそれに連れ去られた子供たちの崇りを受けるんだ。
みんなで手をぐいぐい引っぱって山まで連れてって、そこで死んだ子供たちに取り囲まれて、
気づいたらお前もその子たちの仲間になってるんだ。
山から逃げても無駄だぞ。そいつらはお前が家で寝てる時、こっそりと入ってきてさらっちまうからな」
今にして思えば、それは怖い話をして二度と私をそこに近づけまいとする大人の浅知恵だったのでしょう。

けれども私はその話が怖くて、それを聞いた後は宴会で明々と賑わう広間から離れることができません。
しかし宴もたけなわを過ぎると、母親から「もう寝なさい」と寝床へ追いやられてしまい、
私はひとりで寝室として使っている部屋へと戻りました。
母親の実家は地元の名家で、家は屋敷と呼んで遜色ないほどに広いのです。
屋敷には宴会のあとで酔いつぶれた人たちが泊まれるよう、二十畳ほどの広めに造られた和室がいくつかあり、
私が寝室としてつかっているのもその内の一つでした。
普段は広い部屋を独占していることに高揚する気分も、今はどうにも頼りなく、不安な気がしてなりません。
私は縁側の廊下へ続くふすまや障子を全て閉じ、
常夜灯をつけたままで祖母が用意してくれていた布団にもぐりこみました。

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