心霊良い話
手を引っ張るモノ

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676 5/12 sage New! 2009/10/05(月) 16:16:44 ID:9IzgCcHu0
どれだけの時間が経ったのでしょうか。
ふと、私は目を覚ましました。
屋敷の中は静まり返り、人の気配はありません。
どうやら既に宴会は終わり、みんな寝静まっているようでした。
私が普段、夜中に目を覚ますことなど滅多に無いことです。あるとすればせいぜい、
起きている誰かが物音を立てた時くらい。
しかし全員が寝静まった屋敷の中で、そんな物音を立てる者など……。

 ……ギっ……………………。

どこか、すぐ近く。まるでそこの障子の向こう、縁側を通る廊下から、床が軋むような音が聞こえました。
両親か祖父母、でなければ泊まっている誰かがトイレに起きてきたのかもしれない……とは思いませんでした。
一階のトイレは、風呂場など水周りの集まる屋敷の北側と西側にしかありません。
私がいる寝室は屋敷の東側、しかもその一番端。誰であろうとこの廊下を通るはずはないのです。
そう、この部屋に来ることが目的である以外は。

 ……ギっ……………………。

不意に、音が止みました。私は廊下へつづく障子に背を向ける形で横になっています。
すっ、と木枠が滑らかに動くような音が聞こえた気がして、みしり、と畳の軋む音が聞こえた気がしました。
ふわ、と頬を風に撫でられたような気がして、誰かの気配がすぐそばにあるような気がしました。
私は目を閉じたまま、背後にいる誰かに起きていることを悟られまいと身を堅くします。
けれど妙に高鳴る心音で、わずかに震える肩の揺れで、
目を覚ましていることがばれるのではないかと思うと、気が気ではありません。
それと同時に、背後にいるのはどんなやつなのか。
顔は、背は、太っているのか痩せているのか、恐ろしい姿なのかそうではないのか、とても気になります。

677 6/12 sage New! 2009/10/05(月) 16:18:00 ID:9IzgCcHu0
両者の間に挟まれた私は、せめてどんな体格なのかくらいは見てみようと背を向けたまま薄目を開けて、
相手を盗み見ようと考えました。
目いっぱい視界を動かせば頭の天辺くらいはみえるだろう。
そして相手の顔までは見えないのだから、相手に悟られることもないだろう。
そう思った私は、ほんのわずかにまぶたを開き、視界を背後へと移し、

背後にいるソレと目が合いました。

ソレは私の上に大きく身を乗り出し、顔をのぞきこんでいたのです。
ソレは私の顔をのぞきこみながら、にんまりと笑いを浮べていました。
私はとっさに目を閉じ、震えそうになる全身を必死で押さえつけました。
ちらりと見えてしまった顔は女の子で、切りそろえた前髪と肩から垂れる長い黒髪。
そして着物のような襟。見ることができたのはそれだけでした。そしてそれだけで十分でした。

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