心霊良い話
手を引っ張るモノ

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690 10/12 sage New! 2009/10/05(月) 17:00:44 ID:9IzgCcHu0
しかし、歩けど歩けどなかなか川へは辿り着きません。方角が正しいことは間違いないはずなのに、
もう辺りは真っ暗になっていました。
雨足は弱まるどころかさらに強くなり、長い時間を歩き続けたために疲労もすでに限界です。
この頃には既に私の中にあった祠や崇りへの恐怖は薄れ、
代わりに「もう帰れないかもしれない」という不安と恐れが、
今にも私の身を食い尽くそうとしていました。
それが起こったのは、そんな時です。
私は 何か に足を取られ、前に広がる水溜りの中へ盛大に顔を突っ込みました。
その拍子に細かい砂か砂利かが目の中に入り、痛くて瞼が開けられません。
目を擦ろうとしますが、両手も同じように砂と泥にまみれているため、それすらままなりませんでした。
雨と暗闇の中、さらに視界を奪われ、服や靴は水を吸い重たく、手足は疲労により石のように固まっています。
まさしく八方塞がりでした。私は水溜りの中に座り込み、動く気力も無く、
ただ身体に打ち付ける雨の感触に身を委ねて、力なくうなだれました。
その時。

何者かが私の右の手を掴みました。

そして、私を立たせるように引っ張り上げたのです。
私がつられて立ち上がると、ソレは私の手を引いたまま、どこかへ連れて行くかのように進み始めました。
私は逆らうこともせず、引かれるままについていきます。向かっているのは私が歩いていたのと同じ方向。
川と、谷と、崖がある方角でした。
その時は私の考える力は半ば麻痺していて、ただ何となく、谷のほうへ向かってる。
なら谷を飛び越えて川の向こう側にでも行くんだろうか? その程度にしか思考がはたらきません。
ただ手を引かれるに従い、川の流れに身を委ねるように、ソレついていくのみでした。

692 11/12 sage New! 2009/10/05(月) 17:01:58 ID:9IzgCcHu0
けれど結構な時間を歩いても、なかなか崖を飛び越えるような感覚は訪れませんでした。
私の手を引く何者かは、途中で何度か方向を変えながらも相変わらず進み続けています。
走るように歩く速さで、迷ったり止まったりすることも無く。
途中、何度か転びそうになった時でも、ソレは私の手をしっかりと掴んだまま、
決して放すことはありませんでした。
私を起こすように強く手を引き、倒れそうな身体を支えながら、けれどやっぱり止まることはせず。

しばらく歩き続け、私は自分の踏む地面がむき出しの土から舗装された道路へと変わったことに気づきました。
どうやらハイキングコースまで戻ってきたようです。
ここからなら、ふもとの町までそう時間をかけずに戻ることが出来るでしょう。
けれどソレは私の手を引いたまま。私もそれに従って、目を閉じたままで歩き続けました。

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