師匠シリーズ
四隅

この怖い話は約 4 分で読めます。

という話をCoCoさんは淡々と語った。
どこかで聞いたことがある。
子供だましのような話だ。
そんなもの、ノリでやっても絶対になにも起きない。しらけるだけだ。
そう思っていると、京介さんが「ルールを二つ付け加えるんだ」
と言い出した。

1.スタート走者は、時計回り反時計回りどちらでも選べる。
2.誰もいない隅に来た人間が、次のスタート走者になる。

次のスタート走者って、それだと5人目とかいう問題じゃなく普通に終わらないだろ。
そう思ったのだがなんだか面白そうなので、やりますと答えた。
「じゃあ、これ。誰がスタートかわかんない方が面白いでしょ。
あたり引いた人がスタートね」
CoCoさんに渡されたレモン型のガムを持って、俺は壁を這うように部屋の隅へ向かった。
「みんなカドについた? じゃあガムをおもっきし噛む」
部屋の対角線あたりからCoCoさんの声が聞こえ、言われたとおりにするとほのかな酸味が口に広がる。
ハズレだった。アタリは吐きたくなるくらい酸っぱいはずだ。
京介さんがどこの隅へ向かったか気配で感じていた俺は、全員の位置を把握できていた。

773 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:26:15 ID:9j0TgqFm0

CoCo    京介

みかっち  俺

こんな感じのはずだ。
誰がスタート者か、そしてどっちから来るのかわからないところがゾクゾクする。
つまり自分が「誰もいないはずの隅」に向かっていても、それがわからないのだ。
角にもたれかかるように立っていると、バタバタという風の音を体で感じる。
いつくるかいつくるかと身構えていると、いきなり右肩を掴まれた。
右から来たということは京介さんだ。
心臓をバクバク言わせながらも声一つあげずに俺は次の隅へと壁伝いに進んだ。
時計回りということになる。
自然と小さな歩幅で歩いたが、暗闇の中では距離感がはっきりせず妙に次の隅が遠い気がした。
ちょっと怖くなって来たときにようやく、誰かの肩とおぼしきものに手が触れた。みかっちさんのはずだ。
一瞬ビクっとしたあと、人の気配が遠ざかって行く。
俺はその隅に立ち止まると、また角にもたれか掛かった。壁はほんのりと暖かい。そうだろう。誰だってこんな何も見えない中でなんにも触らずには立っていられない。

774 名前: 四隅 2006/08/28(月) 20:26:59 ID:9j0TgqFm0

風の音を聞いていると、またいきなり右肩を強く掴まれた。京介さんだ。わざとやっているとしか思えない。
俺は闇の向こうの人物を睨みながら、また時計回りに静々と進む。
さっきのリプレイのように誰かの肩に触れ、そして誰かは去っていった。
その角で待つ俺は、こんどはビビらないぞと踏ん張っていたが、やはり右から来た誰かに右肩を掴まれ、ビクリとするのだった。
そして、『俺が次のスタート走者になったら方向を変えてやる』
と密かに誓いながら進むことしばし。
誰かの肩ではなく垂直に立つ壁に手が触れた。
一瞬声をあげそうになった。
ポケットだった。
誰もいない隅をなぜかその時の俺は頭の中でそう呼んだ。たぶんエア・ポケットからの連想だと思う。
ポケットについた俺は、念願の次のスタート権を得たわけだ。
今4人は、四隅のそれぞれにたたずんでいることになる。
俺は当然のように反時計回りに進み始めた。
ようやく京介さんを触れる!
いや、誤解しないで欲しい。なにも女性としての京介さんを触れる喜びに浸っているのではない。ビビらされた相手へのリベンジの機会に燃えているだけだ。
ただこの闇夜のこと、変なところを掴んでしまう危険性は確かにある。だがそれは仕方のない事故ではないだろうか。
俺は出来る限り足音を殺して右方向へ歩いた。
そしてすでに把握した距離感で、ここしかないという位置に左手を捻りこんだ。

この怖い話にコメントする

四隅