洒落怖
大樹

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「先生!夕紅先生!」
私は、私を呼ぶ生徒の声と私を揺さぶる振動に目を覚ましました。
「先生っ!良かったぁ・・・!!」
するとそこには、昨夜気を失ったあの生徒の非常に安堵した顔があったのです。
(・・私は、どうしたんだっけ・・・?)
起きたばかりで回らない頭のまま辺りを見回した私は、そこが昨夜の廊下だという事に気が付きました。
私が投げた花や置物が乱雑に散らかったままの床、久美子先生の血の跡がついたカーペット。
まるで時が止まったかの様に、全てが昨夜のあの時のままでした。
そして、我に返った私は久美子先生がいない事に気が付きました。
久美子先生だけではなく、あの女性も。
「久美子先生は?!」
私と生徒さんは慌てて久美子先生の部屋を見に行きましたが、中はもぬけの殻で誰もいませんでした。
「何処に行ったんだろう・・・?」
私達は他の先生に協力して貰いホテル中を探しましたが、何処にも久美子先生の姿はありませんでした。
まさか一人で帰ってしまったのか、そんな意見すら出ましたが。
私は
(そんな筈ない、あの女性に連れ去られてしまったんだ・・・。)
そう、確信していました。そうして、ふと、何故かあの大樹の事が頭をよぎったのです。
そう言えば、昨日亡くなった俊輔先生はあの立て札を引き抜いた直ぐ後に亡くなった・・・。
久美子先生も、俊輔先生と一緒にふざけてあの立て札を繁みに隠してしまったんだっけ・・・。
91 :夕紅 ◆e/DkDKVoCg @\(^o^)/:2015/03/08(日) 21:43:19.54 ID:QZKoiujk0.net[6/7]
(もしかしたら・・・。)
私は、同僚の先生を伴い、あの大樹の元へ行ってみました。
すると、そこには
「久美子先生・・・!」
大きな大樹の一番上・・そのてっぺんの太い枝で首を吊っている久美子先生が、ゆらゆらと風に揺れていました。
その目は何か恐ろしい物を見たかの様にカッと見開き、口からは伸びきった舌がだらりと垂れ下がっていました。
そして・・・遺体の真下に、引き抜いた筈のあの立て札が、しっかりと刺さり、立っていたのです。
私達は息を呑みました。

私達は直ぐに地元の警察に連絡して、来て頂いたのですが、地元の警察の方々はしきりに頭を捻っていました。
「どうやって、あの枝まで登ってロープをかけたのだろう?」
そうです。
久美子先生の足元には梯子はおろか、踏み台になる物は何もなく、どの様にしてあのてっぺんの枝まで登ってロープをかけたのかが全くの不明だったのです。
(きっと、あの女性に絞め殺されて、あそこに引っかけられたんだ・・・。)
私は、そう確信しました。
そして、色々不明な部分はあるものの、俊輔先生と久美子先生の件は不幸な事故として処理されました。
その処理に釈然としない気持ちを抱えたまま、私達は帰る事になったのですが、迎えのバスが来るまでの時間、私は、あの大樹の事をホテルの支配人さんに聞いてみる事にしました。
すると、思いもかけない話を聞く事が出来ました。
昔、このホテルがある辺りの地域は夏場は酷い大雨に悩まされていたそうです。
92 :夕紅 ◆e/DkDKVoCg @\(^o^)/:2015/03/08(日) 21:44:04.15 ID:QZKoiujk0.net[7/7]
そして、ある年、余りに酷い大雨に近くの川が氾濫を起こし、沢山の方が巻き込まれ、沢山の命が失われたそうです。
その事態を重く見た、当時のこの村の長老が雨の神様を鎮める為、村から誰かを生け贄に選び、川に鎮める事にしたのだそうです。
そこで、村にいた身寄りのない一人暮らしの女性が選ばれたそうなのですが、その女性は生け贄になる事を嫌がり、密かに村からの脱出を図ったそうです。
しかし、結果として、女性は村の男性に見つかってしまい、もう二度と逃げ出さない様にと儀式まで長老の屋敷の倉に監禁されてしまったそうです。
そこで、絶望した女性は倉にあった荒縄で首を括り命を絶ったそうなのですが。
丁度その時、村は儀式の準備等で忙しく、また、監禁をして置けば女性も懲りて大人しくなるだろうという余裕から発見が遅れ、長老が発見した時には、女性の遺体はかなり凄惨な事になっていたそうです。
倉の細い小さな窓から忍び込んだらしい蛇が女性の遺体を食い荒らし、女性の目や鼻や口からは溢れんばかりの蛇が這い出していたそうです。
(私が見た人と同じだ・・・!)
そして、その女性が首を吊った倉があった場所があの大樹の生えている場所で、蛇の様に絡み合うあの大樹の姿から、あの大樹はその女性の怨念が形を成して現れたものなんだ、と地元の人々は恐れていたそうなのです。
あの大樹が生えてから、何も知らない小さな子供が登ったりしたらしいのですが、落下して亡くなる等不幸な事故が相次いだ為、遠い県から高名なお坊さんを招き、供養して貰ったそうです。
そして、そのお坊さんに頂いた経文を書きうつした立て札を鎮める為に刺していた、とのことでした。
その、鎮める為の大切な経文が書かれた立て札を私達は引き抜いてしまったのです。

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大樹