洒落怖
逆吸血鬼と下水処理場跡

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 やがてその地下に続くという階段があるドアの前にたどり着く。
どうやらジャイアンとスネ夫はあらかじめ建物の中を歩き、その目星をつけていたらしい。
すでにそこは窓からの光も差さない場所で、ジャイアンが持って来ていたライト以外には光が存在しなかった。
俺はというともうライトの光を見ること、もうそれだけに意識を集中している状態。
それ以外はどうでもよかった。
だから、ライトの先に「非常階段」と書かれていたのをはっきりと覚えている。
「おい、逆吸血鬼。お前があけろ」
いきなりの指名。
無我の境地に達していた俺にその言葉はすんなり入り、まるで幽鬼のようにフラフラとドアの前に立ち、ノブを回した。
だが、その地下に続くはずの階段は水の底に沈んでおり、どう見てもいけそうな感じではなかった。

「うわああああああああああ!!!」

536 逆吸血鬼と下水処理場跡 sage 2008/08/31(日) 18:33:31 ID:YaF8J6x30
いきなりジャイアンが叫んだ。
驚いて振り向いた先で、ジャイアンの右手にあったライトが床に落ちてゆく。
もし、もし床に落ちた衝撃でライトが消えたら?
真の暗闇、自分が最も恐れるもの。
その発想は俺に不思議な力を与えた。
時間がゆっくりになった。
俺はすかさず飛び出し、ヘッドスライディングの要領でライトを手に取り、起き上がった。
光になるものを持っていれば心はだいぶ落ち着く。
「どうしたんだよジャイアン?」
そういったのは正人である。
ジャイアンもスネ夫もまるで幽霊を見たかのように、ドアの向こうを見つめていた。
だが、光に照らされた先には水面が移るだけでほかには何もない。
「違う、違うんだよ。そんなつもりはなかったんだ」
ジャイアンは訳の分からないことをつぶやいている。
スネ夫も壁に張り付いて息を荒くしていた。
ここに居ても仕方ないし、何時までも居たくなかったので、外に出る。

 建物の入り口でジャイアンとスネ夫はようやく落ち着いたらしく、ポツポツと語りだした。
「実は昨日あそこに行ってたんだ。その時はあんなふうにはなってなかった」
「階段が暗闇の向こうに続いていて、その先は行き止まりだったんだ」
だから、一つのいたずらをひらめいたそうだ。
そこに俺を閉じ込めたらどんな反応をするのか。
そこはライトがなければ、何もない暗闇。
そんなところに逆吸血鬼を閉じ込めたら・・・・・喚くだろうか、叫ぶだろうか、きっとドアを激しく叩くだろう。
そんな反応を楽しむのが今回の探検の本当の目的だった。
「はじめは横井がドアを開けた瞬間に背中を押して閉じ込めるつもりだったんだ」
つまりこいつらはあの時、俺の背中を押そうとしてたのだ。
そのために、俺にドアを開けさせた。
そしてその直前に気づいたのだ、地下が水で満たされていることに。
暗闇で、水が満たされた地下に服を着ている小学生が背中を押されて飛び込んでいたら・・・・・・結果は火を見るより明らか。
「ごめん、そんなつもりはなかったんだ。ごめんよお」

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