洒落怖
てんらく

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「…どけて…どけて…」

盛塩のことだろうか。どけたらどうなる?想像もしたくない。

「…どけて…入れて…」

自分の楽観視を心底恨んだ。息苦しい布団の中で耐え続けて窒息してしまった方が幸せにすら思える。

「…入れて…入れて…」

真っ赤な右手は、次第に激しく窓を叩く動作へと変わった。
耳を塞いだ。それでも何の変化もなく聞こえてしまう。
そして強く目を閉じた次の瞬間、誰かが肩を叩いた。心臓が止まるか止まらないかの狭間で、聞き覚えのある声が聞こえた。

「どうしたの?そんなに叫んだら近所迷惑でしょ」

肩を叩いたのは母親だった。息を切らせながら恐る恐る窓の隙間に視線を向けると、そこには人影もなく、残り少ない静かな夜が刻まれていた。

108 5 sage 2009/09/13(日) 02:42:37 ID:wrOFdkJNO
それからは真夏でも夜は雨戸を閉めるようになり、盛塩も続けていた。
あの女の霊についても思うところがあった。
たぶん自殺者の霊なのかも知れない。それも飛び降り自殺。
うちの近くにはT団地という、ちょっと有名な飛び降り自殺の名所がある。自殺を望む人が、わざわざタクシーに乗って、そこまで訪れる、なんて噂まであった。
幸い、あの女な顔は半分だけしか見ないで済んだが、もしかしたら、もう半分はもっと損壊が激しくて、おぞましい顔だったのかも知れない。そう思うと背筋に冷たいものが走る。
それに『てんらく』という文字も、飛び降り自殺と無関係とは思えない。
何よりその文字に自分の未来を案じずにはいられなかった。

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