洒落怖
てんらく

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ドンッ

体がビクッと脈打って、情けない吐息混じりの声が漏れそうになり、慌てて両手で口を塞ぐ。

ドンドンドンッ

これまで幽霊や呪いなど半信半疑。生涯そうだろうと思っていた。その分、この現象に対する衝撃は大きかった。
その音に対して、脳はフル回転で現実的な原因を検索している。酔っ払い。変質者。友達の悪戯。
しかし、どう頑張っても脳裏に浮かぶのは、浮遊する人型の物体が窓を叩く絵図だった。
二階にあるこの部屋の窓を。

106 3 sage 2009/09/13(日) 02:39:49 ID:wrOFdkJNO
どのくらい経っただろうか。いつの間にか窓を叩く音は消えていた。
布団の隙間から部屋の様子を伺う。真っ暗な部屋。
布団の中には、吐いては吸った生暖かい二酸化窒素が充満していて、死ぬほど息苦しい。
もう限界だ。意を決して布団から頭を出してみる。
別にたいしたことはない。見慣れた部屋だ。
時計を見ると蛍光針の位置が二時半の辺りを指していた。まだまだ朝は遠い。だが恐怖心はピーク時の半分以下。
しかし小さな物音ひとつで、あっという間にピークに逆戻りするだろう。そう思うと、まるで爆弾を抱えているような気分になった。
毎晩、こんな恐ろしいことが続くのだろうか。これからずっと…。いや、化け物の仕業とも限らないぞ。
再び現実的な原因を探してみる。今度は冷静に。
『やっぱり、あいつらじゃないのか?』数時間前までこの部屋にいた友達三人が、ハシゴに乗って窓を叩いている姿を想像して思わず笑いそうになった。
ひとりがハシゴの上、残りの二人はハシゴを押さえている姿だった。
それぞれ笑いを堪えながら。

『やりかねない。だから盛塩なんて言ったのか。ビビらせる為に』

もう物音がしたところで怖くなんかない。
ガバッと上半身を起こした。大量の汗で、パジャマが体に貼り付いて気持ち悪い。
窓を見ると、曇りガラスの向こうは真っ暗で、何のシルエットもない。
忍び足で窓の側まで近づき、耳を澄ませた。外からは何も聞こえない。何も気配を感じない。
『あいつら、もう帰ったのかな』
少し寂しくなった。
ゆっくり窓の鍵をあけ、音を立てないように、少しだけ窓をあけた。そしてその隙間に片目だけ近づけて、外の様子を伺う。

窓の外から同じように片目が覗いていた。
「うわあああああああ」
俺は悲鳴をあげながら大きく仰け反り、腰を抜かした。

107 4 sage 2009/09/13(日) 02:41:44 ID:wrOFdkJNO
腰を抜かし床にへたれ込んだ状態で窓を見上げると、長い髪の『それ』は、足場がないはずなのに、その空間で直立して、顔半分を窓の隙間に密着させていた。俺を見ている。血の通った人間の目ではない。ニヤリと変形した口元。歯がなく、血が滴っていた。

「…どけて…」

喉が潰れているような声。
その女は右の掌で窓をさすりながら言った。その手は曇りガラスの向こうで真っ赤に滲んでいる。

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