洒落怖
近づく女

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生コン会社前の街灯の薄明かりの中にくっきり女の顔があった。
こういう時、「うわー!」とか「ぎゃー!」という声は出ないもんなんだと知った。
よく漫画とかである「ヒッ!」っていうヤツ、あれ正解。
震える手は言うことを聞かず、女から目を離すことも出来ない。
全身ががくがくする。
そのとき、いきなり携帯が鳴り響き、驚いて跳ね上がった。
それと同時に女はすぅっと消えた。
しばらく呆然としていたら着信音がとまり、はっと我に返った。

放り投げた携帯を手繰り寄せ、履歴を見たら伯母からだった。
生コン会社がある区域だからアンテナが立ってる。
すぐにかけ直した。
「あ~、○○くん?まだ運転中やったんやねぇ、ごめ~ん」
伯母ののんびりした声を聞いてほっとした。
「いや、今とまってるから大丈夫。何?」
「あんた、忘れもんしてるで。何やろ、これ?小さい青いのん。
 今日使うもんやないんならいいけど、置いててかまへんのか?」
ポケットに入ってたフラッシュメモリーを落としてきたようだ。
「私用のヤツやからかまへんわ。また次行ったときでええよ」
あちこちきょろきょろ見回して女が居ないのを確認し、タバコに火をつけた。

639 6/7 sage 2009/09/10(木) 10:32:33 ID:hinMIqEV0
わざとダラダラと伯母と話し、落ち着いてからまた車を発進させた。
オーディオのスイッチを入れてみたら普通についた。
「あははは!」思わず声が出た。
ここまで来たら町に出るまでもうすぐ、かなり元気を取り戻して
ブルーハーツをがなりながら先を急いだ。

少し広い府道に出る手前の最後の集落を抜けようとした時、
ふとミラーが捻じ曲がったままなのに気付いた。
町に入れば後ろが見えないのは危険だ。
ミラーを元の位置に戻していくと、だんだんその中に・・・
嘘や!!なんで!?

後部座席にヤツが座ってる!!
満面の笑み。
こんな気持ち悪い笑顔は見たことが無い。
ヤツは笑いながら言った。
「当たるよぅ・・・」
ミラーの中に気を取られていた。
前方を見たら左側の岩肌が眼前に迫っていた。
体が動かない。
あかん!死ぬ!
そのとき、再び携帯が鳴り響いた。
ふっと体が自由になり、ブレーキを踏み込みハンドルを切った。
凄まじいブレーキ音と避けきれずホイールとボディを削る金属音。
府道に出る交差点のすぐ手前だった。
「だから崖のとこの方がよかったのに・・・」
か細い声が聞こえて恐る恐る振り向いた。
女は少し離れたところに立っていた。
元の無表情に戻っていた。
心なしか怒っているようにも見えた。

640 7/7 sage 2009/09/10(木) 10:33:54 ID:hinMIqEV0
聞こえるか聞こえないか分からなかったが、力いっぱい叫んだ。
「ザマーミロ!もうついてくんな!クソが!!」
女はくるりと後ろを向き、またふらふらと歩き出してすぐに消えた。

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