洒落怖
卒業式の後

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698 3/7 sage 2009/07/26(日) 01:01:06 ID:b9hgz70f0
Sさんは一般的には美しい人ではなかった。がっちりした体格で癖毛の髪は短く、目も細くて一見して取っ付き
にくい印象さえあった。でも何故か、学校で一番男前のTという彼氏がいて、俺は不思議に思っていた。
「何でここに?」やっと出た声は情けないほど上擦ってしまう。
「もしかしてここかなって思って来てみたら、やっぱりここだったってだけ。たまたま」と微笑む。
続けて、どうしたの?とは聞かれなかった。Sさんらしい思いやりのある配慮だった。優しい無関心、そんな
言葉が浮かんだ。
「いやぁ、もう何かいたたまれなくて。もう何か『いいや!』ってなっちゃって」
「そっか・・・・・」
( 情けねー!! )
海に飛び込んで藻屑と消えてしまいたかった。でもSさんになら、この煩悶とした気持ちをぶちまけてもいいんじゃ
ないか、いいや言っちまえ!そう思った。

開き直った俺は、相手不在の恨み辛み、今までの後悔、これからの不安、愚痴以下の不平不満を並べ立てた。
Sさんは何も反論することなく、丁寧に相槌を打ってくれていた。
その最中、俺は自分の膝や手を見て話していたのだけど、ちらりと見やった海に何かが浮いているのが見えた。
話しながらも目を凝らしてそれを見ると、どうやら「椰子の実のような物」が二つ、こちらの方へ流れてきている
らしかった。しばらくしてその椰子の実のような物は、人の形をしている事が分かった。気味が悪いと感じながら、
俺はSさんに話すのをやめなかった。聞いてほしいことが次から次へと溢れ出て、自分自身こんな事を思っていたんだ
と呆れ、また気付かされもした。
途中Sさんに目をやると、Sさんもその「椰子の実のヒトガタ」に気付いていたらしく、難しい顔でそれを見ながら
俺の話しに相槌を打っていた。

699 4/7 sage 2009/07/26(日) 01:03:27 ID:b9hgz70f0
ところでSさんには俺にとって忘れられない、こんなエピソードがある。
いつか保健体育のテストの答え合わせがあった時だ。それは返却されたテストの回答を一人一問ずつ答えていく
というもので、保健体育のテストだから男子はもちろん、女子には特に答えにくいであろう問題もあった。
『精子』
確かに口にするのは憚られる。「分かりません」と、分からない筈はないだろうに、女子たちは恥ずかしそうに
その答えを回避していた。

みんなもそれを分かっていたので、くすくすと笑い声もあがっていた。答えはどんどん先送りされ、先生も何も
咎めなかった。間の悪いことに回答順はしばらく女子が続く。
( こりゃ男子まで回るな・・・・・ )
そう思っていた時だった。順番はSさんだった。

「 精子 」
Sさんは強調するでも遠慮するでもなく、落ちているものを拾うみたいに、自然な所作で答えてみせた。
教室は一瞬静まりかえって、すぐに次の答えに移った。

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