この怖い話は約 3 分で読めます。
カーペットを歩けば軽い衣擦れのような音がするのだが、
履物によってはあまり音が聞こえない場合もある。
それに対してトイレに入ればいかなる履物でもすぐにゴムが擦れるような
「キュッ、キュッ」という特徴的な音を立てるため、
仮に忍び足で歩いたとしても少なからず、摩擦音が聞こえるはずだ。
声がいよいよ近づいてくる。しかし相変わらず内容はハッキリとしない。
それどころかとても陰鬱なボソボソした独り言のような声なのだ。
124 最終退室者(3/6) sage 2009/06/21(日) 02:56:14 ID:Ji+DSlua0
そもそも警備員が二人で歩いてきたとすれば、
そんなに小さな声で話すだろうか?
なおも、声が近づいてくる。心臓が徐々に激しく鼓動を打ち始める。
その声はトイレの入り口の辺りに差し掛かったようだ。
しかし何も足音は聞こえない。
声からすると移動はスムーズに淀みなく続いている。
しかし衣擦れや足音が一切聞こえないのだ。
「どうし…、こ…な……に…、ど…し…、こんな………。」
不気味な声が近づいてくる。僅かずつではあるが、聞き取れる部分が増えてきた。
だが、相変わらずボソボソとした声で、途切れ途切れにしか聞こえない。
その声がトイレの入り口の辺りで一旦足を止めたようだ。
本当に警備員だろうか?
なぜなら足元の隙間から懐中電灯の明かりなどが一切漏れてこないのだ。
数秒間その場にとどまった後、再び声が聞こえ始めた。
どうやらさらに近づいてくるようだ。
「どうして、こんな……に…、どうして、こんなこ…に…。」
相変わらず足音は聞こえない。
だが、どうやら自問自答するような言葉を繰り返しているようだ。
俺は入り口から最も遠い個室に入っていたのだが、
既に声の感じからすると入り口のすぐ横の洗面所の辺りまで近付いているようだ。
そしてこれまで聞き取れなかった陰鬱な声がハッキリと聞き取れ始めた。
125 最終退室者(4/6) sage 2009/06/21(日) 02:56:56 ID:Ji+DSlua0
「どうして、こんなことに…。どうして…。こんなはずではなかったのに…。」
その声を聞きながら全身の鳥肌が一斉に逆立つのを感じた。
何かを後悔しているようだ。
しかしその声が地獄の底から聞こえるような、非現実的な響きを伴っている。
全身から嫌な脂汗が流れ始める。鳥肌が一向に収まる気配もない。
声の陰鬱さもそうだが、どうして足音がしないのだろう?
そして、なぜこれ程の完全な暗闇の中を、
独り言を呟きながらトイレに入ってくるのだろう?
そういえば、8階のトイレは俺がこのビルで働き始めた2年前から、
いつも故障中の張り紙が貼られた個室が1つだけあった。
なぜ2年間も故障したまま修理されないのだろう?
これまで別の階で水が溢れて大騒ぎになったことがあったが、
その時はすぐに修理されて使えるようになったのではなかったか?