洒落怖
一瞬の静寂

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誰に問いかける訳でもなく、話し掛ける訳でもありません。しかし、それは間違いなく人の声に変わったのです。
それも、一人や二人の声ではありません。それこそ何人もの、人達が話をしているのです。
けっして、大勢で会話をしている状況ではありません。無秩序に、何人もの人が勝手に声を出しているだけなのです。

その内に、話している言葉が聞き取れ始めました。
・・・「死んでしまえ」。 ・・・「いやだ、いやだ」。 ・・・「つらい」。 ・・・「悲しい」。
一人の声質ではありません。男性の声、女性の声。若者らしき声や、高齢者の声質なのです。
つぶやくように、囁くように、恨みのことばを吐き続けるのです。

245 本当にあった怖い名無し sage 2009/10/20(火) 16:47:45 ID:n/JJvvmc0
私の頭の中で、「何故?」と言う疑問と「恐怖」が交差し、
この状況を無理やりにでも説明付け、理解しなければいけと言い聞かせている自分がいます。

頭の中で、依然「声」は囁かれています。
何度も、何度も・・・パニックになりそうな自分を、押さえるのに必死でした。

どれくらいの時間だったのか不明ですが、始まりと同様に囁く「声」が掻き消え。
金縛りが「ふっ」と解けたのです。
さっきまでの恐怖と緊張がウソのように消え、硬直していた体に脱力感が戻り、見開いた瞼を合わせることが出来ます。
大きなため息をひとつ吐き、見開いていた瞼を擦りながら前の座席に視線を移すと、
正面の乗客が私の顔を不思議そうに眺めています。
けげんそうに、チラチラと私の表情を盗み見ているのです。
察するところ、どうやら金縛りの状態を見られていたと思われます。
つまり、私の体感した恐怖の時間を、第三者が訳も分からないまま傍観していたことになるのです。
私が「大丈夫です」と乗客に声を掛けると、良かったと声にこそ出しませんが明らかに安心した表情になりました。
つまり、私が車内で転寝をしてみた夢や幻覚では無く、現実の出来事として実在している証なのです。

246 本当にあった怖い名無し sage 2009/10/20(火) 16:49:55 ID:n/JJvvmc0
金縛りの脱力感から回復しつつある状態と、降車する駅に車両が到着するのが同時でした。
座席から立ち上がる時に、心配をしてもらった見知らぬ乗客に会釈をし、急ぎ足で改札へ向かいます。

今の私は、とにもかくにも体を動かすか、考え事でもしていなければならないのです。
気を緩ませると、あの一瞬の「静寂」がまた襲ってくるのではないかと、恐怖で泣き出したいくらいでした。

いつもより、相当に早足だったと思います。通常の半分程度の時間で自宅に戻れたのです。
部屋のドアを開け、薄暗い玄関ですが中に入ると、安堵感と脱力感から座り込んでしまいました。

何回も、不思議な「一瞬の静寂」を経験している私でも、今日の恐怖は言葉に表せません。
自宅に戻れた安心感からか、先程の恐怖感がものすごい勢いで思い出されます。
恥ずかしい話ですが、恐怖による体の震えを止めることが出来ませんでした。

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一瞬の静寂