洒落怖
ぐるぐる巻きの鐘

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見たところ、3人がかりで地面に鐘を降ろしたようです。
先ほどの音は地面に落とした時の音でしょうか。
どうやら鐘撞き小屋から鐘を出せないでいるようです。
この鐘撞き小屋には屋根と屋根を支える四方の柱があり、
壁はありません。しかし壁の代わりにその四方の柱同士が
水平の柱でつながれています。水平の柱は
四方のすべての方向につけられていますので、
それが邪魔をして鐘撞き小屋から鐘を出せないようでした。

61 5/11 2009/10/14(水) 00:19:26 ID:RQVGJyVv0
当時は金属の盗難が流行する前でしたので何をしているかわからず、
私はただその光景を見ていました。パジャマで双眼鏡のレンズを拭き、
暗闇にも目が慣れてきました。連中は鐘に巻きつけられた縄に
木の棒を通し、2人で棒の前後を持って持ち上げるようです。
鐘撞き小屋から出たか、というところで鐘が落ちました。
2人が耳を押さえます。私がその光景を見た3秒後くらいに

「ごうん」

という音が聞こえてきました。鳥が飛び立つ音、犬が吠える声も聞こえます。
窓から見える家のいくつかに灯りがつきました。それを見て、
また双眼鏡に目を戻すと連中の姿は消えていました。

62 6/11 2009/10/14(水) 00:20:23 ID:RQVGJyVv0
次の日の朝、といっても私は昼近くまで寝ていたのですが、
母親から「昨日の音、聞いた?」と聞かれました。
洗いざらいを説明するのが面倒だったので適当に答え、
また部屋に戻ると双眼鏡を覗きます。鐘撞き小屋のところに
何人かの人が集まっている様子だったので、何かおもしろいことはないかと
スーパーカブに乗って現場に向かいました。

境内には白い「わ」ナンバーのバンが乗り付けられていました。
そして鐘撞き小屋の一段高くなったところの下に鐘が落ちていました。
警察の検証は終わったようで、犯人は車を捨てていなくなったとのことです。
盗られたものもなく、近隣の警察と寺、自治体に連絡しておく、
とのことでした。その一方で僧侶の代わりに日ごろの運営をしている
村の消防団の人たちが鐘をどうするか、という話をしていました。

63 7/11 2009/10/14(水) 00:23:22 ID:RQVGJyVv0

「もう1回かけるか」
「もうこのままにしておいたらどうか」

その話し合いを遠巻きに見ている人々の中に、A君のおばあさんがいました。
A君は小学生の頃に一家で村から引越していったのですが
おばあさんだけが残っていました。自分は既にA君と音信不通でしたが、
おばあさんは孫と同い年の自分に良くしてくれるので
この年になるまでときどき家に遊びにいくという関係が続いています。

俺「お久しぶりです。」
婆「俺ちゃんか。泥棒じゃないかって。嫌な世の中だね。」
俺「鐘なんて売れるんですかね。」
婆「戦後は鉄くず屋が来て自転車でも買っていったもんだけど。」
俺「なんでも鑑定団なんかに出そうとしたのかな。」
婆「ごぜさんの鐘だなんてお金もらっても欲しくないわ。」
俺「ごぜさんの鐘?」

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