何でも怖い
「にしろ」

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山道の途中途中にはたくさんの幟が立てられ、お社前の広場には煌々と篝火が焚かれています。「おさっしゃ」はまず、
神職の口上から始まります。村人の中にも意味のわかるものは少ない日本語とは思えないようなものです。その後に
神への贄が捧げられます。酒と御幣と数日前に村人が仕留めた一頭ずつの鹿と猪です。そしてまた祝詞のようなものがあり、
わたしは「にご」から出されます。ここで一年間習い覚えた踊りを披露します。わたしは無我夢中で踊り、なんとか一つも
間違えずに終えました。周りを囲んだ男衆から口々に「よい出来だ」「今年はよい」などの声が聞こえます。
そうして踊り終えたわたしは茶碗一杯の御神酒を一息に飲むように命じられました。

451 : 本当にあった怖い名無し : 2012/06/02(土) 21:32:33.05 ID:ea7+1LKs0

そして一同はこれで帰ってしまうのですが「おさっしゃ」はわたしにとってはまだ続きます。明日の朝、里で一番鶏が鳴くまで、
このお社の中に一晩こもって過ごさなくてはならないのです。雪の降る地方ではないのですが、十月の山は寒く薄い白い肌襦袢を
着て過ごすので寝ることはほとんどできないという話を事前に聞いていました。わたしは初めて大量に飲んだ酒のために体が火照り
まだ寒さは感じず、何もない社殿の中の山側の壁にもたれていました。神職がわたしの側に来て「ちょっと怖い目をするかもしれないが
心配ない、何も危険なことはないから、けっして逃げ出したりせずしっかり務めてくれ。」そう言って外に出て扉に錠をかけたようでした。
板のすき間からわずかに見えていた篝火が消され、男達の声も消えました。お社の中は灯りもなく真の暗闇となりました。外はほとんど風も
ないようです。

不思議と怖いとは感じませんでしたし、危険があるとも思いませんでした。なぜならこれまで毎年代々「にしろ」を務めた人たちは、村を出た
人以外はみな健在であったからです。ただし「にしろ」としてこのお社の中で経験したことは、絶対に人に言ってはいけないし、
また聞いてもいけないことになっていたため、どのようなことが起きるのかはわかりません。かすかに木の葉がさやぐ音が壁を通して伝わってきます。
三時間ばかり過ぎ寒くなってきました。これでは寝ることはとうていできません。一枚だけ与えられた薄い白絹の布にくるまり壁にもたれて
膝を抱えていると、ふっと真っ暗で何も見えないのに社殿内の空気が変わったのがわかりました。それと同時に社殿内がものすごく獣臭くなり、
何者かがいる気配がします。それも二頭の息遣いに聞こえます。身を固くしていると、あっという間に白絹をはがされ、わたしの体は宙に浮きました。
ひょいと足首をつかんで持ち上げられたのだと思いました。

452 : 本当にあった怖い名無し : 2012/06/02(土) 21:33:22.49 ID:ea7+1LKs0

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