宗教
地下のまる穴

この怖い話は約 3 分で読めます。

用を足したあと、鏡を見て悲鳴をあげました。
顔が私ではありませんでした。まったくの別人でした。
覚えていないのですが、その時私は激しいパニックを起こしたらしく、
大変だったらしいです。

その後は一ヶ月近く入院しました。私は両親と名乗る男女や、
妹を名乗る女の子や、見舞いに来た自称友達や、
自称担任の先生だったという男性らに「僕は○○じゃないし、あなたを知らない」
と言い続けました。

AやBの事や、自分の過去や記憶を覚えている範囲で話し続けましたが、
すべて記憶障害、記憶喪失で片付けられました。Aなど存在しない、
Bもいない、そんな人間は存在しないと説得されました。
しかし、みんな私にとても優しく接してくれました。

医師や周りの話だと、私は学校帰りに自転車のそばで倒れているところを
通行人に発見され、そのまま病室に担ぎ込まれたそうです。

私に入ってくるこの世界の情報はどれも聞いた事がないものばかりでした。
例えば、「ここは神奈川県だよ」と言われた時は、
私は神奈川県など知らないし、そんな県はなかったはずでした。
通貨単位も円など聞いた事もない。東京など知らない。
日本など知らない…という感じです。

19 地下のまる穴12 sage 2011/12/16(金) 10:33:31.15 ID:s+XHJkPg0
そのつど医師からは「じゃあ、なんだったの?」と聞かれるのですが、
どうしても思い出せないのです。Aの名前も思い出せず、
「同級生の友達」と何度も説明しましたが周りからは
「そんな子はいないよ」と言われました。
あの施設に入り、あのフラフープに入った話を医師に何度も必死に
説明しましたが、「それは眠っていた時の夢なんだよ」という
感じで流され続けました。

しかし恐ろしい事に、私自身「自分は記憶喪失なんだ。
前の人生や世界は全部寝ていた時の夢だったんだ」と
真剣に思い始めていたのです。

「記憶喪失な上に、別人格・別世界の記憶が上書きされている」と
信じはじめていたのです。

どちらにせよ私には別人としての人生を生きていく事しか
選択肢はありませんでした。退院後に父や母や妹に連れられ自宅に戻りました。
「思い出せない?」と両親から聞かれましたが、
それは初めて見る家に初めて見る街並みでした。
私はカウンセリングに通いながら、必死にこの新しい人生に順応しようと
思いました。

私に入ってくる単語や情報には違和感のあるものとないものに分かれました。
都道府県名や国名はどれも初めて聞いたものばかりですし、
昔の歴史や歴史上の人物も初耳でしたが、大部分の日常単語については、
違和感はありませんでした。テレビや新聞、椅子やリモコンなどの
日常会話はまったく違和感ありません。

20 地下のまる穴13 sage 2011/12/16(金) 10:35:38.36 ID:s+XHJkPg0
最初は家族に馴染めず、敬語で話したり、パンツや下着を洗われるのが
嫌で自分で洗濯などしていましたが、不思議な事に、
本物の家族なんだと思えるようになり、前の人生は前世か夢だと
思うようになりました。

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