宗教
地下のまる穴

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そう思えてくると、前の人生での記憶が少しずつ失われていきました。
唯一鮮明に覚えていた両親の顔や兄の顔や友人の顔や田舎の街並みも
思い出すのに時間がかかるようになりました。

しかし、あの最後の一夜、宗教施設での記憶だけは
ハッキリ覚えていました。
特にあの満面の笑みの老人の顔は忘れられませんでした。

新しい生活にも慣れ、カウンセリングの回数も減り、
半年後には高校にも復帰しました。二十歳で高校3年生からやり直したのですが、
友人もでき、楽しさを感じていました。テレビ番組も観た事がない
番組ばかりでとても新鮮でした。
神奈川県の都市でしたので都会の生活もすごく楽しかったのを覚えています。

しかし、高校復帰から4ヶ月ほど経った後に意外な形で、
あの世界とこの世界とをつなぐ共通点が現れました。ちょうど夏休みに、
私は宿題の課題のため、本屋で本を探していました。

すると並べてある本の中で「○○○○」という文字が目に入りました。
宗教関連本でした。「○○○○」というのは、紛れもなく、
私が最後の夜に侵入した新興宗教の名前でした。

私は驚愕しました。そして本を手にとり、必死に読みました。
「○○○○」はこの世界では、かなり巨大な宗教団体というのが分かりました。

21 地下のまる穴14 sage 2011/12/16(金) 10:36:31.14 ID:s+XHJkPg0
私のいた世界では名前も聞いた事がない無名の新興宗教団体だったのに、
こちらでは世界的な宗教団体だったのです。それから私はその宗教の関連本を
何冊も買い読みあさりましたが、それは意味がない行為でした。

読んだからといって何も変わりません。戻れるわけでもなければ、
誰かに私の過去を証明できるような事実でもありません。

周りに話したところで「それは意識がなかった時に○○○○が夢に出てきただけだ」
と言われるだろうと思ったからです。

それに、親切にしてくれる新しい家族や友人たちに迷惑や
心配をかけたくなかったのです。せっかく高校にも復学し、
過去の話をしなくなった私に対して安心感を感じてくれている周囲に対しての
申し訳なさ、またカウンセリングに通う苦痛を考え、
私は見て見ぬふりをする事にし普通に人生を送ってきました。
17年が経ち、私も今は都内で働くごく普通のサラリーマンです。

ではなぜ今さらこんな事を書き記そうと思ったかと言うと、
先月、私の自宅に封書の手紙が届きました。匿名で書かれた手紙の内容は

「突然で申し訳ありません。私はあなたをよく知っています。
あなたも私をよく知っているはずです。あなたを見つけるのに
とても長い時間と手間がかかりました。あなたは○○という名前ですが、
覚えていますか?また必ず手紙を送ります。この手紙の内容は誰にも
言わないでください。あなたの婚約者にも。よろしくお願いします」

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