師匠シリーズ
田舎

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915 田舎 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2007/03/07(水) 19:57:04 ID:OPG460nV0
「何度引っ掛かるんですか」
俺は右手を必死に腕の隙間に入れようとしながらも強気にそう言った。
向こうでは、踵を返そうとする京介さんをCoCoさんが押しとどめている。
俺とCocoさんの説明を中心に、師匠がよけいなことを言って京介さんが本気で
怒る場面などを経て、実に15分後。
「暑いし、もういいよ」
という京介さんの疲れたような一言で、同行四人という状況が追認されることに
なった。
思うにこの二人、共通点が多いのが同族嫌悪となっているのではないだろうか。
無類のオカルト好きであり、ジーンズをこよなく愛し、俺という共通の弟分を
持ち、それからこの後に知ったのであるが二人とも剣道の有段者だった。
俺はよくこの二人を称して磁石のS極とS極と言った。その時もお互いの磁場の
分だけ距離を置いていたので、その真ん中でCoCoさんにだけ聞こえるようにその
例えを耳打ちすると、彼女は何を思ったのか「二人とも絶対Mだ」とわけのわか
らない断言をして、俺にはその意味がその日の夜までわからなかった。
夜になにかあったわけではない。ただ俺がそれだけ鈍かったという話だ。
ただ一つ、そのときに気になることがあった。
さっき師匠にチョークスリーパーを掛けられた時に感じた不思議な香りが、かす
かに鼻腔に残っている。
まさかな。
そう思ってCoCoさんを見たが、あいかわらず何を考えているのかよくわからない
表情をしていた。
そうしているうちに、駅のロータリーに車がついた。
四人の前で作業着を着た初老の男性が車から降りながら手を振る。
伯父だった。
バスなり電車なりで行けるよ、とあれほど言ったのに「ちょうどこっちに出て
くる用事があるき」と車で迎えに来てくれたのだった。

916 田舎 前編 ラスト  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2007/03/07(水) 19:58:43 ID:OPG460nV0
ところどころに真新しい汚れのついた作業着を見て、そんな用事なんてなかった
ことはすぐわかる。
久しぶりの俺の帰省が嬉しかったのだろう。俺が連れてきた初対面の3人と愛想
よく握手をして、「さあ乗ったり乗ったり」と笑う。
ここから村までは車で3時間は掛かる。
車内でも伯父はよく喋り、よく笑い、それまでの険悪なムードはひとまず影を
潜めた。
日差しの眩しい国道を気持ち良く疾走する車の、窓の向こうに広がる景色を眺め
ながら、俺は来て良かったなあと気の早いことを考えていた。
思えば、その無類のオカルト好きが二人揃って俺の帰省について来ると言い出し
た事態の意味を、その時もう少し考えてみるべきだったのかも知れない。
紺屋の白袴と笑われても仕方がない。俺は、俺のルーツでもある山間部の因習と
深い闇を、知らな過ぎたのだった。

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