師匠シリーズ
田舎

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911 田舎 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2007/03/07(水) 19:50:43 ID:OPG460nV0
そして「なんと言っても、おまえの故郷は犬神の本場だ」と、何故か俺の肩を
バンバンと叩くのだった。
「犬神ってなんですか」という俺の問いに、紺屋の白袴だと笑い「犬を使って人
を呪う術だよ」と耳元で囁いた。ヒャクトウ団地突撃団の怪気炎が騒々しかった
ためだが、耳に息が掛かって、それがどうしようもなく俺をゾクゾクさせた。
田舎はどんなところだと聞くので、先日師匠にしたような話をした。
そして村の名前をだした瞬間に、まるで先日の再現のように身を起こして「ほん
とか」と言うのである。
これには俺の方が狐につままれたような気持ちで、誘うというより半ば疑問系
に「一緒に行きますか?」と言った。
京介さんは綺麗な眉毛を曲げて「うーん」と唸ったあと、「バイトがあるから
なあ」とこぼした。
「コラ、おまえらも行くんだぞヒャクトウ団地」
他のメンバーから本日のメインテーマを振られて、その話はそれまでだった。
けれど俺は見逃さなかった。
「バイトがあるから」と言った京介さんが、そのあと突撃団の輪に背を向けて
小さなスケジュール帳をなんども確認しているのを。

京介さんはたぶん、行きたがっている。バイトがあるのも本当だろうが、なか
ば弟分とはいえ、男である俺と二人で旅行というのにも抵抗があるのだろう。い
や、案外そんなことおかまいなしに「いいよ」とあっさり承知するような人かも
しれない。「一緒に行きますか」などとサラリと言えてしまったのも、きっと
そういうイメージがあったからだ。
ともかく、あと一押しだという感触はあった。一瞬、二人で行けたらなあという
楽しげな妄想が浮かんだが、師匠も来るのだということを思い出し、少し残念な
気持ちになった。

912 田舎 前編  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2007/03/07(水) 19:51:58 ID:OPG460nV0
しかし、師匠と京介さんというコンビの面白さは実感していたので、これはなん
としても二人セットで来させたい。ところがこの二人、水と油のように仲が悪い。
一計を案じた。
オフ会がハネたあと、散会していく人の中からCoCoさんという、その集まりの
中心人物をつかまえた。彼女も俺と同じ大学だったが、試験などよりこちらの
ほうが大事なのだろう。そして彼女は師匠の恋人であり、京介さんとも親しい
仲であるという、まさに味方に引き入れなければならない人だった。
CoCoさんはあっさりと俺の計画に乗ってくれた。
むしろノリノリで、ああしてこうして、という指示まで俺に飛ばし始めた。
簡単に言うと、師匠には「師匠、俺、CoCoさん」の3人旅行だと思わせ、京介
さんには「京介さん、俺、CoCoさん」の3人旅だと思わせるのだ。
いずれ当然バレるが、現地についてしまえばなし崩し的にどうとでもなる。つま
りいつもの俺の手口なのだった。
翌日、CoCoさんから「キョースケOK」とのメールが来た。
同じ日に、「なんか、一緒に来たいって行ってるけどいいか?」と、CoCoさんの
同行を少し申し訳なさそうに師匠が尋ねてきた。もちろん気持ちよく了承する。
これで里帰りの準備が整った。
そして試験の出来はやはり酷いものだった。

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