師匠シリーズ
怪物 「起」

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何かがこの街に起こりつつある。
はっきりそう感じたのは次の日、火曜日の学校の昼休みだった。
「わたし、昨日怖い夢見た~」
昼のお弁当を早々に食べ終わり、どこか涼しいところで昼寝でもしようかと立ち上
がりかけた時にそんな言葉を耳にした。
教室の真ん中あたりで机を4つ並べてお昼ご飯を食べているグループだった。
その言葉に反応したのは、なにか理由があったわけではない。いわばカンだ。けれ
どその子の次の言葉を聞いた瞬間、私の中で何かがカチリと音を立てた。
「でもなんか~、どんな夢だったか忘れちゃった」
その音は鍵穴が立てる音なのか、それとも時計の針が綺麗な数字を指した音なのか。
私はドッドッドッ……と少しずつ早くなる鼓動をじっと聴いていた。

524 師匠コピペ3 sage New! 2008/07/07(月) 21:24:04 ID:Qa02XDyg0

656 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/07/06(日) 21:25:29 ID:JJl4aZ230
「なんで忘れたのに怖い夢って分かんのよ」
「そういや、そっか~」
他愛のない会話が続き、彼女たちの話題は何の引っ掛かりもなく見る間に変わって
いった。
昨日・怖い・夢を・見た・どんな・夢か・忘れた・けど
その言葉を、私は今朝も聞いた。確かに聞いた。既視感ではない。
あれは歩いて登校する時の、通勤ラッシュでごった返す人の群れの中だった。誰が
話していたのか、顔も見ていない。ただその時、私は思ったのだ。
(そういえば私もだな)
今、まるで同じ言葉を耳にして私の中の動物的本能が不吉なものを察知した。
立ち上がり、教室を出る。外の空気が吸いたい。
廊下を上履きが叩く音が二重に聞こえた。誰かがついてくる懐かしい音。
でも私の行く後をいつもついて来ていた子は今、学校を休んでいる。近々転校する
のだと人づてに聞いた。小さな針が、胸の内側をつつく感じ。
「山中さん」
という声に振り向くと、目立たない顔立ちの小柄な子が立っている。
高野志保という名前のクラスメイトだ。少し前にある事件で関わってから妙に懐か
れてしまっていた。良い気分ではない。私は出来るだけ一人でいたい。
「あの……私も見たよ。昨日。怖い夢。占いとか得意なんだよね。山中さん。ちょ
 っと占ってくれないかな」
私は立ち止まり、顔を突き出した。
「急いでるんだ。また今度ね」
「あ、うん。ごめん」
踵を返してその場を立ち去る。
ああ。嫌なヤツだ。

525 師匠コピペ4 sage New! 2008/07/07(月) 21:24:45 ID:Qa02XDyg0

657 怪物   ◆oJUBn2VTGE ウニ 2008/07/06(日) 21:31:22 ID:JJl4aZ230
軽い自己嫌悪に苛まれながら私は急いだ。
どこに?
どこか、人のいない処に。

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