師匠シリーズ
家鳴り

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夜明けを待たずに、俺たちはその家を出た。
結局、師匠の秘蔵品は拝まなかった。とてもその勇気はなかった。いいです、と
言って両手を振る俺に師匠は笑っていた。
のちに師匠の行方がわからなくなってから、俺はあの家の家主を見つけ出した。
1万1000円で家を貸していた人だ。

515 家鳴り ラスト  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/01/28(日) 12:50:48 ID:STrJj++Q0
店子がいなくなったことに興味はない様子だった。なくなった物も、置いてい
った物もないし、別に・・・・・・とその人は言った。
それを聞いて俺は単純に、師匠は自分の収集品を処分してから消えたのだと考
えていた。
ところがその人は言うのである。
「ぼくがあの家を買い取った理由? それは何と言っても『地下室にいる』って
 いう興味深い書置きだね。だってあの家には地下室なんてないんだから」

結論から言うと、僕はその家をもう一度訪ねることはしなかった。
何年かして、ある機会に立ち寄ると更地になっていたので、もう永久に無理な
のであるが。
この不可解な話にはいくつかの合理的解釈がある。地下室があるのに、ないと
言った嘘。地下室がないのに、あると言った嘘。そして『地下室にいる』と書い
た嘘。
どれがまっとうな答えなのかはわからない。ただ、深夜に一人でいるとき、部屋
のどこからともなく木の軋むような音が聞こえてくるたび、古めかしい美術品に
囲まれた部屋の、ランプの仄明かりの中で師匠と語らった不思議な時間を思い出す。

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