師匠シリーズ
図書館

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904 図書館  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2007/03/07(水) 19:40:10 ID:OPG460nV0
俺は知らぬ間に浮かんでいた冷たい汗を拭って、投げるように本を棚に戻して
そのまま図書館を出た。

後日サークルの先輩にその話をした。
俺を怖いものに首をつっこませ続けた張本人であり、師匠風をやたらと吹かせ
る人だ。
「ああ、旧図書館か」
したり顔で合点がてんする。
あそこは、いろいろあってね。
そう続けて、俺の顔を正面から見据えてから「興味がある?」と聞いてきた。
ないわけはない。
つれられるままに夕方、図書館のゲートをくぐった。
「あそこですけど」
通り過ぎようとする師匠に、本棚の並ぶ一角を示す。
それを無視するように足早に進むので、仕方なしに追いかけた。
書庫へ向かっていた。
何度か入ったことはあったが薄暗く、かび臭いような独特の空気が好きになれ
ない場所だった。
それに、書庫にあるような本は一般のぐーたら学生には縁遠い。
「タイミングが重要だ」
出入り口に鍵は掛かるが、今はまだフリーに出入りできる。
師匠は書庫に入ると俺に目配せをしながら、あるスペースに身を潜めた。
俺も続く。誰にも見られなかったと思うが、少し緊張した。
ここで、時間を、潰す。
師匠が声を顰めてそう言った。
どうやら夜の図書館に用があるらしい。見回りの職員の目からロストするために、
姿を隠したのだ。

905 図書館  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2007/03/07(水) 19:41:38 ID:OPG460nV0
そうか。
書庫は図書館自体が閉まるより早く施錠されるから……
随分待つ羽目になったが、人名尻取りを少しやったあとウトウトしはじめ、あっ
さりと二人とも眠ってしまった。
目が覚めてからよくこんな窮屈な格好で寝られたものだと思う。
凝った関節周辺を揉みほぐしながら隣の師匠を揺り動かすと、「どこ? ここ」
と寝ぼけたことを言うので唖然としかけたが、「冗談だ」とすぐに軽口だか弁解
だかをして外の様子を伺う。
暗い。
そして書庫の本棚が黒い壁のように視界を遮る。
先へ行く師匠を追いかけて手探りで進む。
息と、足音を殺して本の森の奥へと。
「あ」
師匠にぶつかって、立ち止まる。
闇の中でのジェスチャーに従い、その場に座り込む。
「その、エアポケットみたいな場所って」
ヒソヒソ声が言う。
「人間には居心地の悪い空間でも、霊魂にとってはそうじゃない。むしろ霊魂が
そこを通るから人間には避けたくなるんだろう」
「霊道ってやつですか」
首を振る気配がある。
「道って言葉はしっくり来ないな。どちらかというと、穴。そうだな。穴だ」
そんな言葉が静まり返った書庫の空気をかすかに振るわせる。
そして師匠は、この図書館が立っている場所にはかつて旧日本軍の施設があった
という話をした。
それは知っている。大学の中には、そのことにまつわる怪談話も多い。
「この真下に、巨大な穴がある」

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