師匠シリーズ
依頼

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896 依頼 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2009/06/07(日) 00:10:47 ID:PyPRRLYk0
小川さんはじっと師匠の横顔を見つめた後、「わかった」と言った。
「あとはまかせろ」
小川さんはイライラと足を動かしながら椅子に座っている依頼人の元へ一人で戻って行った。

依頼人が喚きながら去って行った後、ようやく静かになった事務所で僕らは息をついた。
「警察へは?」
師匠がデスクに腰を乗っける。
「あとで、匿名で情報提供しておく」
小川さんが疲れたような声を出した。そして煙草に火をつけながら誰にともなく訊く。
「赤ん坊は? まだいるのか」
師匠が視線を僕に迂回させる。
「ついて、出ていきました。一瞬だったけど、たぶん」
ふぅ、と煙を吐き出して小川さんは胸の前で十字を切る真似をする。
依頼人にここを紹介したタカヤ総合リサーチという興信所は、元々小川さんが所属していたことがあるらしく、よくこんな仕事を回してくれるのだそうだ。
そのタカヤ総合リサーチから電話が入った。
小川さんが明るい声でやりとりをしたあと、受話器を置く。
「オバケっぽくないケースだったけど、市原女子の第六感が働いたんだと」
市原さんという名物事務員がいるそうだ。聞いたところによると世話好きなオバサンという印象。
「市原さん、ファインプレーだったな」
師匠がおかしげに言った。

898 依頼 ラスト ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2009/06/07(日) 00:14:39 ID:PyPRRLYk0
小川さんが財布を取り出して千円札を何枚か師匠の胸元に近づける。
「今日は悪かったな。足代だ。血色が悪いぞ。ちゃんと食え」
「ありがとう」
師匠は無造作にそれを仕舞う。
「バイトする気があるなら、名刺を作っといてあげるよ」
おもいきり不定期だけど。
そう言って小川さんは案外真面目な顔で握手を求めてきた。
僕はその手を握る。
「下請けの下請けのバイトの助手だ」
その横で師匠が手を叩いてそんなことを言いながらやけにはしゃいでたのをよく覚えている。

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