師匠シリーズ
すまきの話

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「というか、抓るより痛い目にあったみたいね」
血が床に滴っているのを見つめる。
「これは夢ですね」
「だから、違う。夢じゃない」
「これは夢ですね」
「なんのことなの。なにがあったの」
「これは夢ですね」
「違うっていってるでしょ。夢かどうかくらいわかるでしょう。夢の中でこれが夢だと気づいたことはあっても、夢の中でこれは現実だと気づいたことはあった? ないでしょう。今、ここにいることが現実だと知っている私にとって、これが夢じゃないことくらいわかりきってる」
「これは夢ですね」
「いったいなにがあったの。そう言えって誰かに言われたの?」
「これは夢ですね」
「答えなさい」
「これは夢ですね」
「ちょっと待って。……ホラ、電卓。適当に数字を打つよ。24587×98564=2456395168。夢なら、こんな計算一瞬で出来る? でたらめな数字じゃないってことを検算して確かめましょうか?」

940 すまきの話 ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2009/06/20(土) 23:36:54 ID:sgJKT7Op0
「これは夢ですね」
「夢じゃない」
「これは夢ですね」
「……どういえばわかるのかな。なにか急いでしなくちゃいけないことがあるんじゃないの」
「これは夢ですね」
「怒るよ」
「これは夢ですね」
「いいかげんにして」
「これは夢ですね」

歩くさんはなにか言おうとして、それを止め、深いため息をついた。
「どうしてわかってくれないの。これが夢だってことはどういうことかわかる? 現実だと思っている今の自分が、贋物だってことよ」
疲れたように、壁にもたれかかる。
「あなたにとって現実ってなに?」
黒い瞳が真っ直ぐ向けられる。
「よく考えて答えなさい。するべきことは、その怪我の手当をして、問題を一緒に解決することではないの?」
俺は一歩、土足で彼女の空間に近づいて、言った。
「これは夢ですね」
その瞬間、彼女は表情を歪め、蒼白になった顔を突き出した。
そしてたった一言、
「よくわかったわね」
と言った。
静かな声だった。
世界は暗くなった。
目は開いている。
薄闇の中、天井が見える。
瞬きをする。

946 すまきの話 ◆oJUBn2VTGE ウニ さるになってました New! 2009/06/20(土) 23:48:56 ID:sgJKT7Op0
背中に、畳の感触。
身体を起こす。
師匠の部屋だ。明かりの消えた室内に、毛布にくるまった歩くさんと簀巻きになった師匠がいる。
胸がドキドキしている。静かな夜の空気に漏れ出るくらい。
簀巻きの師匠から、乱れた呼吸の気配がした。
呼びかけてみる。
反応はないが、あきらかに寝たふりだ。
抜け出ようとしてもがいている時に、俺がいきなり起き上ったから驚いたというところか。
簀巻きをバシバシと叩く。
「わかった起きてる。起きてる」
師匠に、今あったことを伝えた。

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