師匠シリーズ
家鳴り

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504 家鳴り  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/01/28(日) 12:35:29 ID:STrJj++Q0
大学2回生の夏のこと。
俺は心霊写真のようなものを友人にもらったので、それを専門家に見てもら
おうと思った。
専門家と言っても俺のサークルの先輩であり、オカルトの道では師匠にあた
る変人である。
彼のアパートにお邪魔するとさっそく写真を取り出したのであるが、それを
手に取るやいなや鼻で笑って、
「2重露光」
との一言でつき返してきた。
友人のおじいちゃんが愛犬と写っているその後ろに、ぼやっと人影らしきも
のが浮かび上がっているのであるが、師匠はそれをあっさりと撮影ミスであ
ると言い切ったのだ。
俺は納得いかない思いで、「それならいつか見せてもらった写真にだって似
たようなのあったでしょう」と言った。
その筋の業者から買ったという心霊写真を山ほど師匠は持っているのだ。
ところが首を振って「今ここにはない」と言う。
俺は狭いアパートの部屋を見回した。
そのとき、ふとこれまでに見せてもらった薄気味の悪いオカルトアイテムが
どこにもないことに気がついたのだ。いくつかは押入れに入っているのかも
しれない。しかし、一度見たものが、また部屋に転がっているということが
なかったのを思い出す。
「どこに隠してるんです」
師匠は気味悪く笑って、「知りたい?」と首をかしげた。
素直に「はい」と言うと、「じゃあ夜になるまで待とうな」と言って師匠は
いきなり布団を敷いて寝始めた。俺はあっけにとられて、一度家に帰ろうと
したがなんだかめんどくさくなり、そのまま床に転がってやがて眠りについた。

505 家鳴り  ◆oJUBn2VTGE ウニ New! 2007/01/28(日) 12:37:00 ID:STrJj++Q0
気がつくと暗い部屋の中に、ぼうっと淡い光を放つ奇妙な形の仏像がひしめ
いていて、師匠が包まっている布団が部屋の真ん中に浮かんでいる。という、
なんとも荒唐無稽な夢を見てうなされ、俺は目を覚ました。暑さと寝苦しさ
のためか、うっすら汗をかいている。
当然部屋には仏像や、師匠のオカルトコレクションの類は出現しておらず、
部屋のヌシも床の上の布団で寝ているのだった。
「もう夜ですよ」と揺り起こすと、窓の外をぼうっと見て「おお、いいカン
ジの時間」とぶつぶつ呟き、師匠は布団から這い出てきた。
「ボキボキ」と口で言いながら背伸びをしたあと、師匠は着替えもせずに俺
をアパートの外へ連れ立った。
深夜である。
特に荷物らしきものも持っていない。
ボロ軽四に火が入る。
助手席で「どこ行くんスか」と問うと、アクセルを踏みながら「隠れ家」と
言う。
「え」
それが存在することは想像はついていたことだが、ついに招待してくれるほ
どの信頼を得られたらしい。
そもそも盗むほどのものがないと言って、家賃9000円のボロアパートに
鍵も掛けずに出かけたりする人なのに、関西の業者から買ったなどと言って
は、おどろおどろしい逸話のある古道具などを嬉しそうに自慢することが多々
あった。
なるほど、それらを隠している場所が別にあったわけである。
北へ北へと車は向かい、すれ違うライトもほとんどない山道を蛇行しながら、
俺はある感覚に襲われていた。
ふつふつと肌が粟立つような寒気である。
原因はわかっている。単純に怖いのだ。人間の恨みや悪意が凝った塊が、
この向かう先にある。心の準備も出来ていない。

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