寺・神社
八方園神社

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925 退職済みですが 2009/07/14(火) 15:49:48 ID:x0QB/pll0
「八方園神社 1/5」

海曹士普通科○○課程学生として江田島の第1術科学校に着任した翌日。
学校内の関連施設を巡る「校内旅行」が行われた。
学生隊隊舎に正対してグラウンドに整列する我々の左手には戦前に砲術教材として設置された戦艦「陸奥」の主砲塔が聳え、その先の海には護衛艦が停泊している。

我々の前にやってきた教官が告げる。
「諸君らは当然、本校敷地には我々が属する第1術科学校と、幹部候補生学校の二つの異なるの部隊がある事は承知していると思う。
 当然、構内の施設はどちらかの学校に付属している。
 本日は主として、幹候校の施設で1術校の学生が使用を許可されている場所と、諸君らがこれから頻繁に利用する場所を巡る。
 他隊の施設を含むので一層の節度ある態度で臨むよう心がけよ。では、出発。」
「第xx分隊、出発します!右向け前へぇー、進め!」当直学生の号令で我々は行進を始める。
海軍兵学校の時代と異なり、行進は駆け足ではなく早足行進である。
左手に赤レンガの幹候校自習室、白亜の幹候校講堂を見ながら東門方向へ向かう。
(実は戦艦「陸奥」の主砲塔の側に「中央桟橋」があり、それが正門。道路に面した門は裏門になります。NAVYだなぁ。。。)
幹候校自習室、幹候校大講堂は専用施設であり、幹候校側の許可がない限り立ち入りができない旨の説明を歩きながら受ける。
「左向けぇ、止まれ!」
幹候校大講堂を過ぎたあたりで教官の号令が飛ぶ。
我々の隊列は幹候校大講堂を正面左斜め前に見る形で停止した。真正面には緑が繁った丘がある。
「まず、第1の目的地である「八方園神社」はちょうど諸君らの正面の丘にある。先に言っておくが、「八方園神社」は一般に言うところの神社ではない。」
我々「???・・・」
「祀られる神がある訳でもなく、当然、拝殿のような建築物もない。」
「え?それで『神社』って呼び方は変。。。」声には出さず、私は思った。

926 退職済みですが 2009/07/14(火) 15:51:51 ID:x0QB/pll0
「八方園神社 2/5」

その丘はちょうど背もたれ付のダイニングチェアを横から見たような地形をしており、腰をのせる部分の平地が「八方園神社と呼ばれているとの事だった。
先ほど歩いてきたメインロードからは、背もたれ部分が邪魔をして直接平地部分を見る事はできない。
我々は丘の裏手へ廻り、平地の辺に平行に刻まれた25段ほどの階段を登る。そして、登りながら視線を左方向へ廻らせる。
確かに、「神社」らしきものはなにも無い。目に入ったのは1辺25m程の平地のほぼ中央に1mほどの円筒計の石積み構造物があるだけ。。。
階段を登りきり平地部に足を踏み入れようとしたとき、私は不思議な感覚にとらわれた。
別に気分が悪い訳ではない。恐怖感もない。むしろ清清とした空気。それが見えない壁となって進入を妨げているような。。。
一歩が踏み出せない。「何故だ?」私は焦っていた。
こんな状態でまごまごしていると、後で洒落にならない怖い罰直が待っている事確実である。
下から「何をしている?早く進まんか!」という声が飛ぶ。学生長の声だ。
「罰直確定?!orz...」と思いながら、なんとか一歩を踏み出す。
しばらくして、全員が平地部に整列した。見えない壁に押し戻されそうな感覚は消えていない。
「気分が悪くなったりしている者は居るか?」教官が我々に問う。
誰も手を挙げない。当然である。ここで申し出てしまったら、「根性ナシ」のレッテルを張られるのが確実だから。
「宜しい。ここは初めて来た時に、拒絶されている、とか、押し戻されるような感覚を感じる者が居るらしい。別に恥ずかしいことではないぞ。」と教官は続ける。
我々の中から、安堵の溜息のような気配が複数。。。私自身も安堵する。「私だけではなかったのだ」、と。
「中央の石積みの周りに集まれ。」教官の指示が飛ぶ。
我々はわらわらと円筒計の石積み構造物を囲むように集まった。まだ違和感は消えず、一歩が重い。

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