田舎・地方の習慣
血雪

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88 :血雪 6/7:2006/01/22(日) 22:02:25 ID:oprygqQ10
おれは迷った挙句、駐在所に電話をいれる事にした。
親子そろって頭がおかしくなったんじゃないか、と言われそうでためらったのだけど、
おれが見たのが幻や幽霊であったとしても、見たことは事実なのだ。

受話器のむこうで何度か呼出し音がしたあと、聞きなれた声の警官が出た。
おれが自分の名を告げると、警官は開口一番、
『なんだ、また出たってのか?』と言ったので、おれは気おくれして、
親父はまだそこにいるんですか、とだけ聞いた。
親父は『もう30分くらい前に駐在所を出た』との事だった。

おれは母ちゃんと親父の帰りを待った。30分前に出てるなら、もう着いていてもいいころだ。
だけど親父はなかなか帰ってこなかった。
おれは母ちゃんと二人で、冷めた朝飯を食いながら、
「親父はまっすぐビニールハウスを見にいったんだろう」と話した。

だけど、昼過ぎになっても戻ってこないので、おれはビニールハウスに親父をさがしに行った。

89 :血雪 7/7:2006/01/22(日) 22:04:02 ID:oprygqQ10
例の橋まできたとき、やや新い足跡がひとり分、橋のうえに続いているのが見えた。
その足跡を目で追うと、それは橋の途中の、
例の女がうずくまっていたと言うあたりまで続き、そこで消えていた。

その欄干の上の雪は、半分ほど欠けていた。
おれは欄干に近寄り、そこから川面を見下ろした。
まっ白な雪の土手にはさまれた川の、膝くらいまでしかない流水のなかに、
黒いジャンパー姿の、長靴をはいた男がうつぶせに倒れていた。
おれは土手を走り降り、川に入っていった。
うつぶせに倒れている男は、親父だった。

おれは必死に親父を土手にひきずり上げたけれど、すでに脈も呼吸も止まっていた。
降りしきる雪の中を見あげると、川の対岸に、
髪の長いコート姿の女が、口、首、胸のまわりを血で真っ赤に染めて、立っていた。
女はすぐに雪のなかに消えた。

おれは母ちゃんと二人、まだこの家に住んでいるが、あれ以来、雪の降る日は一歩も外に出なくなった。

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