洒落怖
毛束

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俺が去年に体験した話。
当時はすごく怖かったんだけど、今考えてみると何か不思議な体験だった。
美容師になって4年目、新人の技術指導で休日出勤してた日だった。
その日は本来休みじゃなかったんだけど、店長が里帰りするっていうので
1日だけ臨時休業になった日だった。

技術を競い合う様々な競技のコンテストが間近に迫ってて、
俺の勤めてる店は新人もベテランも皆強制参加しなければならない。
そこで良い成績を取れれば店からちょっとしたお小遣いが貰えたりするので
自主的に休日出勤をして練習を繰り返していた。

といってもたかが数ヶ月~1年休みに練習したくらいで新人が入賞出来るわけもなく、
だいたいがベテラン達の新人いびりみたいなものだから
1時間もすればベテランは全員帰ってしまって、残ってるベテランは俺一人。
先輩が一人でも残ってる限り新人は帰れない暗黙のルールがあったんだけど、
ただでさえ休みが貰えない新人を見て可哀想になったので、さっさと帰らせる事にした。

863 862 sage New! 2012/08/20(月) 12:56:35.90 ID:JkHQcFYY0
俺は昨日確認するのを忘れてた発注書を書く仕事が残ってて、新人全員を見送った後、
店の中をぐるりと見渡して、足りない物をリストアップしてた。

いつもはBGMを流しておく店内も、今はシンと静まり返り、照明も俺だけだから必要最低限。
勿体ないからと空調を切った後は、じめっとした空気が店内に篭ってる。
天井近くまである大型の商品棚を見上げながら、店販のシャンプー、雑誌…とチェックしていき
しばらくは足りない物をメモ帳に書く音だけが聞こえたんだけど、
それが終わってボールペンを止めた瞬間。
ズルっと、足下で何かが擦れる音がした。

反射的に目線を向けると、散らばった髪の毛の束を踏んでいた。
誰かが掃除中に掃き忘れたのかな、なんて思ってまたメモ帳に視線を戻したけど
すぐにそれは有り得ないことに気付いた。
この場所に立ち止まってから少なくとも2~3分は経過してて、なおかつ
一回も足の置き場所を変えていない。なのに何で音がするんだ。

864 862 sage New! 2012/08/20(月) 12:57:25.00 ID:JkHQcFYY0
焦って再度視線を下に向けると、最初に見たときは無かったはずの毛束が増えていた。
慌てて一歩後退すると、ズルっと音を立ててその毛束がついて来る。
二歩三歩と後退してもズルズルとついてきて、
加えて髪の毛をためておくゴミ箱から毛束がドサドサとこぼれだし、それに続き始めた。

絶対にこんなこと有り得ない、これは夢だと思いながら
どうにかして逃げようと踵を返し、出口まで走り出そうとした瞬間目に入ったのは、
髪の毛に覆われ、照明に照らされぬらぬらと真っ黒に光ている出入り口の扉だった。
本来だったら外が見える筈の大型のガラス窓も、全部真っ黒だった。
あ、これはもう駄目なんだ、と思った瞬間右足首をギュッと掴まれる感触がして、
そのまま勢い良く引倒された。とっさに出た両腕で、顔面から床に激突するのは
回避出来たものの、グイグイ引っ張られる右足の痛みがもの凄くて
いっそ強かに頭を打ち付けて気を失いくらいだった。

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