洒落怖
怪現象の元凶

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「勝手で申し訳ないですが、引っ越してください。」管理人が手を床につき言葉を繋げた。「引越しに必要な費用は、こちらに負担させてください。」俺は本当に救われた。昨晩のことで破けてしまった心が、再びつながった気がした。すぐに、不動産屋に連絡した。持主にも。

両者とも、素直に納得し、解約の申し出はこの電話のみで良いといってくれた。引越屋の手配も請負ってくれた。幸い、引越し初晩で、荷物の大半は開いてはいなかった。

片付けはあまりないけれど、俺の精神状態を酷く心配した夫婦が、手伝ってくれた。片付けも終わり、いよいよ引越屋を待つだけ、となった時だった。旦那さんが、余計なものを見つけた。「このビデオテープは君の?」

868 Teddy ◆38avq92H7U sage 2005/11/27(日) 00:59:53 ID:L2HU3A4n0
(7/10)
しーんと静まった部屋で一同はおれを見つめた。

テープを手に取った。頭が真っ白だった。何分たったのだろうか。おれは、うっかり、余計なことを言った。
「違います。でも、見てみたい。」ごくり、と、皆が息をのんだ。怖かった。でも、おれは知りたかった。

責任者とはどんな連中か。あれは何だったのか。おれは、自己の責任において、ビデオを見ることを決めた。管理人も、夫婦も、真相を知りたい気持ちは同じだった。きっとこのビデオには何か手掛りとなる事実が映っている、と、誰もが直感した。その時、突然、おれのPHSが鳴った。引越屋だ。あと1時間位で到着するそうだ。

良いタイミングだった。十分な時間が与えられた。

869 Teddy ◆38avq92H7U sage 2005/11/27(日) 01:00:28 ID:L2HU3A4n0
(8/10)
テープは、この部屋を撮ったものだった。そこには、一家三人。
きゃっきゃとハシャグ2歳くらいの赤子。優しそうな男性(父親)と美人だが陰鬱な顔の女性(母親)が写っていた。映像が切り替わる。

うるさかった部屋には、今度は誰も写っていない。画面の左り端には、黒い影が映っている。撮影者の指のようだ。ただ、何だかゴトゴトと音がしている。しばらくじぃっと画面を見つめていた。

まわりは、すっかり夕暮れになっていた。「イヤァ!!」急に、かぼそい悲鳴が響いた。一緒に見ていた奥さんだ。目を閉じて、すっかり脅えながら、画面を指差して言った。「せ、せ、洗濯機のなか。。。」おれは息をとめた。
ゴトゴトいう音は洗濯機だ。そして、よく見ると、何か見え隠れしてる。

小さな赤く染まった手だった。

870 Teddy ◆38avq92H7U sage 2005/11/27(日) 01:01:02 ID:L2HU3A4n0
(9/10)
内部に入ってる物は容易に想像できた。

あの子だ。
楽しそうに遊ぶ姿が印象的だった、あの赤子だ。誰もが固唾を呑んで見ていると、急に画像が乱れた。ざぁーと、波が入った。しばらくすると、うつろな部屋が再び写された。皆、動けない。
話せない。おれは、背筋が凍りついた。洗濯機から赤い血糊が部屋の中へ、べったりといっぽんの帯となって続いている。そしてその先には、ズ・ズズ
ッと這うようにうごめく赤い塊があった。

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