洒落怖
僕のお父さんは

この怖い話は約 3 分で読めます。

680 名前:名無しの多摩っ子 投稿日:2001/05/01(火) 07:08
声のほうに顔を向けると、
小学校低学年くらいの男の子が僕のすぐ傍らに立っていた。
髪を短く刈り上げて、利発そうなそれでいてどこか無邪気な笑みを浮かべている。
「なんだい?」僕が尋ねると、
男の子はすっと手を伸ばして「あの子にねぇ……」と言って、そこでいったん言葉を切った。
日の光を受けて金色に光る産毛の生えた腕の先にはもうひとり、同じくらいの年齢の男の子が立っていた。
その子は大人たちと少し離れたところにいて、俯いたまま繰り返し芝生を蹴っている。
「あの子がどうしたの?」
「あの子にねぇ、君のお父さんは100メートル何秒で走れるのって、訊いてきて」
少し照れたようなカンジで、でもなんだか嬉しそうに、刈り上げの男の子は言った。
「え?」
「だから、100メートルを何秒で走れるのって?」
男の子は相変わらずの笑みを浮かべている。

681 名前:名無しの多摩っ子 投稿日:2001/05/01(火) 07:10
僕はなんだかよくわかんなかったけど、男の子の笑顔からして、
きっとあの俯いている男の子のお父さんは有名な陸上選手かなにかなのかなんて思ったんだ。
でも良く考えたら、こんな田舎町にそんな選手はいるわけないんだよね。
ただそのときは酔っぱらってもいたし、刈り上げの男の子の笑顔があんまりにも爽やかだったから、
深く考えないまま「いいよ、わかった。訊いてきてあげるよ」って返事をしながら芝生から立ち上がって、
俯いている男の子ところまで歩いていったんだ。
少しふらつきながら近づいていくと、なんだかちょっと嫌な予感が頭をかすめた。
よくわからないけど嫌なカンジって言うのかなぁ、
不思議なことに人だかりに近づいているのに、
相変わらず喧騒は遠くから聞こえるみたいで、
それでもあまり気にしないで、男の子のすぐ近くまでやってきた。

682 名前:名無しの多摩っ子 投稿日:2001/05/01(火) 07:14
僕がすぐ隣にいるのに男の子は黙って俯いたまま、さっきまでと同じように芝生を蹴り続けている。
僕は振り返って、刈り上げの男の子のほうを見ると、嬉しそうな笑顔でうんうんと頷いていた。
僕も笑顔を返してから向き直って
「ねぇ、君のお父さん、100メートル何秒で走れるの?」
出来るだけの優しい声で、俯く男の子に尋ねた。
瞬間、すべての音が消えたように感じた。遠くから聞こえるような喧騒も、
緩やかな風にそよぐ葉が擦れ合う音も、何もかも消えたように感じられた。
男の子はゆっくりと顔を上げながらこう答えたんだ。
「僕のお父さんは戦争で両足を失ったんだ」

683 名前:名無しの多摩っ子 投稿日:2001/05/01(火) 07:17
うーん、
口頭で元ネタの噂を聞いたときの厭な感じがどこまで伝わっているか、
あまり自信ないですけど、
とりあえず以前書いた話が、
ベストのほうに取り上げてもらった記念に書き込みさせてもらいました。
もっと短くまとめたほうが良いとは思っていながらも、
力不足でだらだらと長くなってしまいました。
誤字脱字段落ミスがあればスマンです。

この怖い話にコメントする

僕のお父さんは
関連ワード