洒落怖
狐の嫁入り

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自宅への帰途で、また変な車列に追い抜かれた。見覚えがある先刻の車列だった。ただ一つ違うのは、中の一台に白無垢を着てうつむいた女性の姿があった事だ。

翌日の葬式に、俺は出席しなかった。そこに先輩がいるとは思えなかったからだった。

それから何年か過ぎたけれど、最近、思う事がある。
狐の嫁入り伝説は各地に残されているが、それが異類婚とセットになっているケースはあまり聞いた事がない。無事に生を受けさせる代わりに、成長したら嫁に取るという話も同様だ。
稲荷の狐は在野の狐とは性質を異にすると言うから、嫁入り行列も組むものなのかどうか。
それに、祖母さんが信仰していた稲荷は、正式な勧請もしていない形だけのものだったはずだ。
社で聞いた声はコーンと鳴いていたが、現実の狐はあんな鳴き方はしないし、俺はその姿を見たわけでもない。
そもそも、狐はあくまでも稲荷の使いであって、祭神そのものではない。
もしかして、先輩を縛っていた狐の嫁という話も、祀っていた稲荷も、嫁入り行列も全て祖母さんが作り上げた妄想だったのではないか? そこに図らずも参加してしまった先輩と俺は、その妄想が現実化するための片棒を自ら担いでいたのではないか?

そして、そのせいで、先輩は死後も祖母さんの妄想にとらわれているとしたら。

……とはいえ、もう祖母さんも死んでしまったし、今では真偽のほどを確かめる手段も無い。
抱いてくれと言った先輩も、祖母さんの影響下から逃げる切っ掛けが欲しかっただけで、その相手は、必ずしも俺である必要は無かったのかもしれない。その方が変な考えにならなくていいけどな。

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