洒落怖
スリッパ

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スリッパを履いた、裸足の足があった。
個室に侵入しようと、限界まで突き刺さった足。
いやに白い、生きている人間の足とは思えない肌の色だった。
「直視していたら気が狂う」そう思ったOはすぐ視線をそらした。あんなものがあってはならない。「確認など絶対にできない」
Oは泣いた。泣きながら、目を瞑り、耳を塞いで耐えた。
なんで自分がこんな目に!そう思いながら、Oには耐えることくらいしかすることがなかった。体が震え、嫌な汗が出てくるのを感じた。
なにより恐ろしいのは、目の前のドア越しにいる「なにか」からはまったく音がしないことだった。呼吸する音も、動く音すらも。
Oの噛み殺した嗚咽だけが、夕方のトイレに響いていた。
5分くらいだろうか。10分かもしれない。
しばらくして、Oはおそるおそる目をあけた。視界には、さきほどの隙間、白い足・・・
何もない。ドアの下には水色のタイルが夕日を受けて光っているだけだった。
放課後のトイレは、もとのように静まりかえっている。先ほど感じた「なにか」はもういないようだった。
安心したOはおそるおそるドアをあけた。何もいない。
が、視線を下したOは、はっと息をのんだ。

彼女がいた個室の前に、一対のサンダルが並ぶように置いてあった。
その時、Oは思い出した。そう、さっきの足は「どんなスリッパを履いていたっけ」と。
Oは泣きながら家に走り帰った。残されたものから逃げるように。
水色で統一された空間にあるまじき、「赤色のスリッパ」から。

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