洒落怖
浄水器

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いよいよ、お祓いが始まる。孔雀王だとか、テレビで見るような、いかにもといった結界
を準備する拝み屋。お祓いは、自宅兼事務所の一階奥にある座敷のような畳の部屋で行わ
れることになっていた。商売繁盛の神棚がったが、神棚があるから、その部屋になったの
かはわからない。
「この前、電話で話した神饌ものは用意してあるか?出してくれ?」
といった会話で、Aの妻とAの母親が、台所と事務所を行ったり来たりする。お祓いの間
は、A家族は当然ながら参加するが、家族ではないBは、出荷の近い豚も居り、運送会社
から連絡が入るかもしれないからと、お祓いが行われる畳の部屋から、二部屋隣となる事
務所で電話番をすることになった。自分と友人は、
「あなたたちも従業員?」
と、尋ねられたが、
「取引先の人だ。ついつい、今回の話しをしたものだから、悪いものがうつってたら申し
訳ないと思って、俺が呼んで、わざわざ来てもらったんだ。」
と、代わってAが答えてくれた。拝み屋は、愛嬌のある「おばちゃん」の笑顔で
「ああ、そういうこと。うつったりするようなものじゃないけれど、まぁ、せっかく来て
もらったんなら、Aさん達と一緒に座りなさい。」
と言ってくれた。

拝み屋は、巫女さんのような格好をするわけでもなく、よく商店街を歩いていそうな、お
ばちゃんの普段着といった格好のまま、アクセサリーだけを外して、紙垂の取り付けられ
た大きな榊の枝を振り、祝詞を上げ始めた。
神道がベースになっているお祓いであり、儀式中はほとんど平身低頭の姿勢だったが、部
屋を見渡しても、祭壇のご神体が動くわけでもない。篝火の炎が激しく揺れるわけでもな
い。家族の誰かがトランス状態になるわけでもない。結界と祭壇こそ、テレビで見るよう
なものだったが、テレビでよく見るような、お祓いの最中に不思議な出来事が起きるなど
ということはなかった。

途中、微かに電話の音が聞こえ、その後にBが儀式中の部屋に、こっそりとやってきてA
に耳打ちをしていたが、Aは
「後で電話するからと言っておいてくれ」
とBに言い、儀式は続いた。お祓いに参加した者が低頭する中、その頭上で一人一人を祓
い、儀式は終わった。

たしか、拝み屋は、出されたお茶をすすり、Aの母親に拝み屋を紹介した共通の知人の話
しなどをし、その辺によくいる「おばちゃん」の笑顔で、
「憑きものとか、狐とかそういうのじゃないと思うから、これでもう大丈夫だし、あとは、
みなさんの気の持ちようですから。」
と、迎えに来た車に乗って帰っていった。たしか、帰りの際は、自分と友人も、その車に
祭壇や八足を積み込むのを手伝った憶えがある。

とにかく、拝み屋の笑顔から佇まいまで、胡散臭さなどなく、A家族もお祓いの始まる前
よりも、明るい顔で拝み屋を見送ったのを記憶している。
霊能者もマルチ勧誘も、胡散臭いものとしてカテゴライズされるが、何だか自分達だけ胡
散臭い存在だなぁ、と、心が痛んだのを記憶している。最終的には、こういった心の痛み
から、浄水器売りを卒業したわけだが。

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