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とはいえ、この家でひとり留守番することへの嫌悪感は次第に募っていき、母が外出する時はなるべく家に寄りつかないようにしていた。新築のYちゃんの家はあの粘りつくような臭いや湿気とは無縁で、よく避難場所として長居していた。
二人でいつものように遊んでいると、Yちゃんがポツリと言った。
73 本当にあった怖い名無し sage 2010/08/11(水) 18:57:12 ID:oVT/5iBN0
「Nちゃん、昨日、家いた?」
「ううん、ずーっといんかった」
「昨日さ、カブ取り行こうとおもってママに電話してもらったら、Nちゃんいるって、ママにわたされた」
「そんで…?」超合金ロボを持つ手が、止まった。
「…Nちゃんじゃないのがでた。へんな声、うしろウーウー言ってて聞こえにくかった」
ぞくりとして、一瞬にして体中の毛穴が広がっていく。Yちゃんがなにを話したのか気になって、
絞り出すような声で先をうながした。
「Nちゃん…出してくださっ…いっ…ていった」
「……」
Yちゃんの言葉に嗚咽がまじりだした。見れば大きく口をあけて上を向き、顔を歪ませながらポロポロと涙が頬を伝っていく。
「…ぼくのなまえよんで、みんな…であそぼっていって・・笑って、たくさんになって、きれた……」
いつのまにか、あの粘り気がこの家にまで忍び込んでいるような気がした。その後Yちゃんは大泣きし、
私もうつむいたまま泣き出していた。そして互いにようやく落ち着いて、その後の話をしてくれた。
電話が切れた後、心配になったYちゃんは急いで私の家に来てくれたという。
74 本当にあった怖い名無し sage 2010/08/11(水) 18:58:34 ID:oVT/5iBN0
あの赤く染まった夕暮れをぽっかり切り抜いたような黒い家。インターホンを2回押し、ドアの前に立ったときに
足が震えて急な吐き気におそわれたということだった。
ああ、家に着いたときに門の脇にあったのゲボはそれだったのかな?…あとおかしなことといえば、
掛けて出たはずの家の鍵が開いていて、お母さんが不思議がっていたっけな…
蝉の声を遠くに聞きながら、怖さよりもなにか途方もない無力感のなかで、そんなことを繰り返し考えていた。
その夏の終わりにかけて、Yちゃんはリンゴ病に発症したとのことで、まったく会えなくなった。
そしてそのまま私の前から消えるように新築の家と父親だけ残して母子は引っ越してしまった。
不思議と、「私らしき誰か」の留守番現象を聞くことはなくなっていた。終息したのか、
それとも親の気遣いで私にまったく伝えなかったのかはわからない。
ひょっとしたらYはあの時、ドアを開けてしまったんじゃないだろうか…?
夏、あの泣き顔が記憶の片隅からよみがえった時にふと、そんなふうに思うことがある。