洒落怖
手形

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「開いてる」
「はい?」
「窓、開いてる」

窓に視線を移すと、確かに開いていた。
俺と田中さんが目を離せなかったのはそれだけではない。何かが出てこようとしていたからだった。
それは、当初想像していたような人のかたちをしたものではなかった。黒くて、小さくて、ぬるんとしていて・・・。
例えるなら爬虫類のようなものだった。そいつがずるずると窓の隙間から這い出てこようとしている。
まずい。こいつに見つかったらまずい。本能的に感じた。

慌ててポケットの中の鍵を探る。田中さんはもうすでに鍵を鍵穴に差し込まんとしているところだった。
引っかかってなかなかポケットの中から出てこない。思い切って手を引っ張るとそのはずみで鍵は手から離れて柵を越えて下に落ちて行ってしまった。
下に行くには階段を降りなくてはならない。そのためには201号室の方に向かう必要があった。俺にはその勇気はない。
「べちゃつ」という音に振り返るとそいつはもう窓から出てしまっていた。どうしようもなくなりその場にへたりこんだ。
田中さんが鍵を開け、扉を開いて中に入ろうとしたまさにその時。

610 本当にあった怖い名無し sage New! 2011/10/23(日) 02:59:45.20 ID:e0GM2n5+0
今まで非常にゆっくりと動いていたように見えたそいつがものすごい勢いで地を這うと、扉が閉まる寸前に田中さんの部屋にするりと入っていった。
田中さんからは死角だったんだろう。そのまま「バタン!!」とドアが閉まり、ドタドタと奥の部屋に向かう足音がして、その後は静けさだけが残った。
俺はそのまましばらく動けなかった。

その後、田中さんを見かけなくなった。だからといって部屋の様子がおかしいとか、なにか奇声がするとかそういうことは全くなく、
ただ単に俺とのタイミングが合わなかっただけかもしれない。
俺は佐藤さんにその事を報告しにいった。俺はどうするべきかわからなかったからだ。佐藤さんが言うには

田中さんが選ばれたのはただ単に偶然だろう。近かったから。その程度じゃないだろうか。とりあえず君は運が良かった。
あいつが何者かはわからない。けど、その見た目を聞く限り、どう考えてもまともなものじゃない。
田中さんをどうするつもりなのか、それもわからない。今すぐなのか、ゆっくり時間をかけてなのか。とにかく、田中さんにはもう関わらない方がいいんじゃないか。
一番いいのは前の住人から話を聞くことなんだけどね・・・。

それを聞いて大家さんに話をしてみたが個人情報保護法云々でそういうことは話せないんだそうだ。佐藤さんは、これ以上この件に関わることをやんわりと拒否した。
その後俺は、会社からの転勤話にこれ幸いと乗っかってそのアパートを出た。もう何年も前のことだ。田中さんはまだあのアパートにいるのか、そもそもあのアパートはまだあるのか。
気にはなるが、確かめにいく気にはなれない。

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