洒落怖
青い箱

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 ・・・り、ざり、ざり

277 本当にあった怖い名無し New! 2011/04/06(水) 23:25:46.61 ID:C0RJjG3V0
 全身を悪寒が駆け巡る。
布団越しでない分いく分かクリアに聞こえる気がするその軽い音が、重く、聞こえる。
身を強張らせ、吐き出したばかりの息も吸えず、ただ目の前の壁から目を逸らせなかった。
耳を塞ぐことも侭ならず、その音を聞き続けるしかないのだ。
 しかし、一度極限状態から安堵を潜った精神には、少しばかりの隙間があった。
もしかしたら、これは千載一遇のチャンスなのではないかと。
ここまで来たのなら、最早奴の正体を暴くべきではと。奴の、大したことない姿を。
 布団の外の空気を吸って、現実的になった脳で考えた案。
その時は、何だって受け入れることが出来る気がしたのだ。
 そして、勢い良く・・・・と言うにはあまりにもぎこちない動きで、下へ首を向ける。
 そこには、幾ばかしか散らかったいつもの部屋があった。
・・・・なんだ、と心に安心がもたらされた、望んでいた結果、至極当たり前の結果。
それを飲み込もうとした、その時。
 凝らした視界のその中に、それが、蠢いていた。
 心臓が破裂せんばかりに飛び上がる。
ざり、ざり、ざり、耳に届く一定の音と共に、それはひとつの関節をめいいっぱい動かしながら畳の目を刻むように進んでいた。
芋虫なんかじゃない!即座に思う。
夜の闇の中、白いそれは尚不器用に動く。そして、闇に慣れた目が気づく。それには―爪があった。
 つまり、こうである。夜の闇に蠢くそれは、人の指であると。

278 本当にあった怖い名無し New! 2011/04/06(水) 23:26:15.08 ID:C0RJjG3V0
 人間の第二関節までが、ひとりでに動いていた。
最早肉があるとか骨があるとかかさぶたがあるとかそんなどころではなく、
兎に角その人の指は、断面をこちらに背を向け、ひたすらえっちらおっちらと微々たる歩みを重ねていた。
 最早凍りついた思考で呆然と眺めていた。
見ようによっては滑稽な姿ではあるが、それは呪われているとしか言いようが無い光景だった。
 指がこちらを向いていないのは幸いであるが(そもそも目なんてどこにあるというのか)、
その猿の手のミイラがずるずると這うのを彷彿させるそれは、一体どこへ向かっているのであろうか。
 ・・・・気づいてしまった。
指が向かうその先にあるのは、あの放り捨てられた青い箱だった。

ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、ざり、
 もう夜は明けないのではないかと、気が遠くなるような時間が過ぎた。
最早、時計の音すら耳に入らず、指の方へと決して目を向けることなく、
指があの青い箱で何をするかも見ることは出来ず、
指が畳を這う音に耳を傾けながら、
いつしか私は、眠っていた。

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