洒落怖
浮かぶ顔

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とりあえず行けよみたいな親指がトンネルに向いたため歩き始めた。
僕の身長の三倍くらいの高さで、田舎にありそうなトンネルだ。
壁は煉瓦で固められ、よく石をこんな丸められるなと思うほどきれいな曲線をえがく。
近付いてみると、結構迫力がある。空気の通る音だろうか。
時折、ゴオオと低い呻き声をあげる。チキンハートな僕はすぐに帰りたくなった。
後ろを振り返ると顎で進めと指示を出される。
後ろから付いてきてくれてはいるが、見えないんじゃ意味はない。
目の前に続くのは闇への道だ。
だんだんと光が届かなくなってきた。手に持った懐中電灯を付ける。
闇を照らす楕円の光は、散らかるゴミを映し出した。
恐怖がお腹から上がってくる。背中に冷気を感じる。
僕の血の気が引いているのか、中に行くほど気温が下がっていくのか分からない。
入り口の光はもう遠くにある。もうダメだ。帰ろう。振り返ろうとしたとき
382 グースカ 2011/02/21(月) 21:31:42.64 ID:VMH9WjG00
「おい、あれを見てみろ。」
声に驚いたが、敦さんは真顔で天井を指差す。僕はとっさに光を指差す方へ向けた。
トンネルの壁は汚れており、コケやら埃やらで黒と緑が混ざったような色をしている。
特に何もない。ただの煉瓦で出来た石の塊達だ。
「よく見てみろ。じっと見れば分かる。」
ささやくような声で僕に言う。僕は言われるがままに眺めた。

あれは…顔だ。男か女か分からないが顔が浮かんでいる。
眉・眼球のない眼・鼻・口、黒く塗り固められた壁に浮かんでいた。
あれはただの汚れが顔に見えるだけだろと少し安心した。

しかし、よく見ると立体的だ。平面に出来た顔ではなく浮き上がっている。
汚れが浮き上がるなんてありえない。それはまさしく人の顔の形をしていた。
黒いだけの眼窩に無表情で見つめられている。
胃酸が沸々と胃の中を焼く。と同時に強い吐き気に襲われた。
他は照らせなかった。無数に顔がある気がして。
クラクラとして倒れそうになる僕を何かが支えた。
敦さんだ。僕を支えてくれている。

383 グースカ 2011/02/21(月) 21:32:43.02 ID:VMH9WjG00
「ちょっとどいてろ。」と言って僕の前に立つ敦さんがかっこよく見えた。
次の瞬間、「おぉい!!うるせぇんだよ!!!近付いて来いやコラァ!!!」
トンネル中に声が響き渡り、何人もの敦さんが同じ事を繰り返していた。
僕は腰を抜かしそうになった。心霊スポットで大声って御法度じゃないの??
もう泣きそうになりながら敦さんの背中を見つめた。
「来いや!!おぉい!!!」また叫ぶ。
僕は恐怖が頂点に達し、遠くの光に向かって全力疾走した。
光だけを見る!周りは見ない!
それでもいくつもの視線を感じた気がした。

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