洒落怖
異形のモノ

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親父が山菜好きで、よく実家の裏山にワラビやゼンマイを取りに行っていた。
その時はたまたま親父に来客があって、一緒に取りに行く予定がキャンセルになった。
でもきっと食べたいだろうと思って、一人でいつもの裏山に行った。
渓流みたいな細い流れに沿って登っていく山道で、ゼンマイはそこらにある。
ワラビはその先の明るく開けた崖のあたりにあった。ワラビの生えている場所について
なるべく太くて美味しそうなのを選んで摘み取っていた。

崖の上からは実家と周囲の何件か、それに少し離れたところにある古い民宿とその奥に
釣り堀が見える。深緑の頃は緑が綺麗で、良い眺めの場所だった。両手で持ちきれない
ほどにワラビが採れたので一休みしようと顔を上げると、釣り堀のところに何かが見えた。
「……?」 緑色のいびつで丸い感じの何かが、釣り堀の水面から半分くらい出ていた。
けっこうでかい。遠目だから正確じゃないが、3~5mくらいありそうな大きな緑のジャガイモ
みたいだった。「なんだあれ……」そう思った途端それがこちらを振り返った。

真っ黒な目玉が一つ付いていた。顔といっていいのか、半分出ている部分と同じくらい
大きな眼だった。眼が合った気がして思わず手の力が抜けてしまった。せっかく摘んだ
ワラビは全部バラバラと落ちてしまった。
見てはいけない物を見たような気がして、それからすぐに家に帰った。崖下に落ちずに
済んだ少しのワラビを拾って、ゼンマイも採らずに焦って帰った。ただ、不思議とあまり恐い
感じはせずに、何か叱られたような気分だった。

親父には見たものをそのまま話したが、面白い物見たなーで笑い飛ばされた。ちょっとしか
採れなかったワラビでも喜んでくれた。夕飯の時に婆ちゃんにその話をすると、山神さんが
採りすぎたから置いてけって出てきたんだろう、と言った。

これで終わり。恐くなくてスマネェ。

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