洒落怖
仏壇守(ぶつだんもり)

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32 28 sage 2010/01/31(日) 00:11:35 ID:fXy0MD5bi

「こっちのカメラは特注でね。人間に見えない波長の光も捉えるんだ。まあ、それだけじゃなくて特別なチューニングを施しているけどね。ま、人には見えないものが見える」
 島崎には伊藤の言葉がほとんど頭に入ってこなかった。仏壇からはさらに黒い靄が流れ出している。2体目だ。
 全く同じ経過を辿って画面から消えていく黒い人型の靄。そして3体目が姿を表していた。
 永遠に続く悪夢のように思えた現象は、画面内の島崎が仏壇の扉を閉めた事であっけなく終わりを遂げた。
「都合3匹」
 伊藤がそう言いながらテレビを消した。そして机の上に置いてあった書類を三枚島崎の方へ投げかける。
 会社向けの訃報だ。全然知らない部署の奴ばかりだ。
「死亡時刻と死因と死亡場所、死亡状況を見てみな」
 ・上野純平 加工食品事業部開発部主任 11時30分 窒息死 第3実験室 他の開発部員と製品開発作業中に突然昏睡状態に、救急隊員の到着時には既に死亡。
 ・高原幸太郎 ゲノム作物事業部副事業部長 11時42分 動脈瘤破裂 事業部長室 事業部の重役会議で発言中に即死。
 ・川辺喜一 瑞鶴警備派遣 11時35分頃 脳挫傷 巡回中に行方不明。他の警備員が捜索の結果、コンクリート製柱に頭部からぶつけた状態で発見。
 島崎は眩暈がしてきた。
 確かに時計を見ていたから覚えている。仏壇を開けたのは11時過ぎ。仏壇から這い出した黒いモノは3体、死人が3人。偶然で片付けるわけには・・・
「あいつらが憑き殺したんだ」
 伊藤はあっさりと言う。
「つまり、俺のせいだっていうのか?」
 伊藤が3つ目のリモコンを手に取った。
 また1つテレビが点灯する。そこに映っているのはゲノム作物事業部の事業部長室だ。
 事業部長を中心に年配の社員達が集まっている。副事業部長の高原がグラフや表の表示されたスクリーンを前に話をしている。
 そこに例の黒い靄が、猿のように腰を曲げて二本足で歩いて現れる。当然誰も気が付かない。
 黒い人型は高原に近づくと、ゆっくりと手を高原の胸に差し入れた。
 途端に高原が胸を押さえて倒れる。他の連中が慌てて高原に駆け寄る。
 そこで伊藤は画面を止めた。
34 28 sage 2010/01/31(日) 00:15:35 ID:fXy0MD5bi

 まさか、本当に?島崎はゆっくりと伊藤を見る。「知らなかった」で済まされる事なのか?
 伊藤は眉と肩を上げてみせた。
「ま、事故だわな。代々そういう扱いにしている」
 内心ホッとした自分が情けなくなる。
「左遷で済むだけマシって訳か。しかし、線香を上げに行く時間もないのか?」
 異動先へは明日朝に発たねばならない。
「当たり前だ。仏壇と怪死は決して結びつけられてはならない。そう決まっている。お前さんも今見た事は忘れるか、墓まで持って行くかしてくれないと困る。俺が」
「今まで何度こんなことが?」
「俺がここに配属になって5年。その間、同じ事をやらかした間抜け・・・失礼、は8人だな。人間誰しも開けるなと言われたら開けたくなるわな。しかし、あれをあそこから動かす訳にはいかない」
「動かすとどうなる?」
「余計ひどい事になる。3年前にあんたの上司の前の前の奴が『撤去する!』と叫んでな。そうやって腕を振り上げた状態で死んだんだそうだ。その後、息子に娘さん嫁さん父さん母さん、半年間で全員死んだそうだ」
「ひどいな」
「ひどいだろ?それを見続ける俺の身にもなってみろよ。こんな仕事を5年もさせやがって、ひどい会社だぜ、まったく」
 そう言うと不貞腐れたようにイスにもたれ掛かる。
「大体この特注カメラを何で取り付けてると思う?何かあったら偉いサンだけ逃げようって魂胆だったのさ。だから重役室にはこのカメラが付いている。
ひどい会社だぜ。ただ、オペレーターが報告しなけりゃそれも分からない。ま、偶然早く帰っていて報告できなかったってことも、あるんじゃないの?」
 伊藤がキキキと笑った。
 島崎は未だ頭の中が混乱していて伊藤の言葉が頭に入ってこない。だから伊藤が、自分自身今回の一件を防げる立場にあったのを棚に上げ、タブーを犯した本人に
どうにもならないこんなものを見せ付けて楽しんでいる悪趣味に気付けなかった。
「ま、死ぬわけじゃなし、異動先でも頑張んな」
 伊藤に肩を叩かれて意識が戻る。
「あ、ああ、ありがとう、教えてくれて」
 ふらふらとした足取りで部屋を後にする島崎。

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