この怖い話は約 3 分で読めます。
俺もガキだったから、すぐに乗せられて、恐怖なんて忘れて多少の誇張を交えつつ誇らしげに語りまくった。
(実際はけんけん婆あの姿は見ないまま逃げ帰ったわけだし)
でも、その話をすぐそばで聞いていたのがうちの母親。
そんな危ないことは絶対にしてはだめと、めちゃくちゃ怒られた。俺号泣。
その晩、俺の母親は他の両親や近所の大人(婦人会の人たち)、それにこの山の所有者の人を集めて話し合いを開いた。
なんでも、子供の遊び場付近に浮浪者の人が寝泊りしているのは、何があるか分からないので危ない。
だからといって子供に山で遊ぶなというのは教育上良くないので、ここは浮浪者の人に出て行ってもらおうと。
451 3/4 sage 2005/06/12(日) 12:29:02 ID:1tlDSaoL0
大人は山に浮浪者が住み着いているということを知らなかったらしく、皆すぐに同意。
もともと私有地の山だったので話も早く、所有者の人を先頭にぞろぞろと山に出かけていった。
でも結局会えなかったらしく、1時間もすると帰ってきた。
廃墟の入り口に退去願いの張り紙だけして戻ってきたらしい。
でもここで、俺たちは訝しげな顔をした大人たちに、本当に浮浪者が居ついているのかということを質問された。
子供の俺たちにとっては考えもつかなかった疑問の数々。
まず例の廃屋は屋根と壁の半分が腐り落ちている状態で、浮浪者といえどとても人間の住める場所ではなかった。
暖を取ることはおろか、雨風すらしのげない。
生活の跡らしきものも見当たらなかったらしい。
それにその場所。
「獣道や藪をつっきった先」と書いたが、途中にかなりスリリングな崖や有刺鉄線で遮られた場所があって、健常者でも辿り着くのに一苦労だ。
(俺たちは有刺鉄線の杭の上を上っていた)
ましてや片足の老婆が、日々行き来できる場所ではないと。
また、大人は誰もけんけん婆あを見たことがないらしい。
特に山のふもとに住んでいる人間なら必ず目撃しているはずなのに、誰一人として見た人間がいない。
断言できるが、あの山で自給自足することなんて不可能だ。
そんなこれまで考えもしなかった疑問に困惑しているとき、俺の父親が帰ってきた。
話を聞いた父、すぐに
「なんだあの婆さん、まだいたのか……」
初の俺たち以外の目撃者。
父が何人かに電話をかけると、近所のオッサン連中が2人ほどやってきた。
父を含め3人とも同世代の地元の人間で、子供の頃よくこの山で遊び、俺たちと同じようにけんけん婆あに遭遇していたらしい。
なんと”けんけん婆あ”という呼び名は、当時からあったようだ。
懐かしそうに思い出を語る3人だったが……
452 4/4 sage 2005/06/12(日) 12:33:45 ID:1tlDSaoL0
ここで山に入る前から黙りがちだった山の所有者のひとが、「実は……」と口を開いた。