洒落怖
おっさん

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中型バイクとはいえ、出足はいい。通り過ぎるときには
40キロくらいは軽くでていたはずだ。そのとき俺が走っていたのは
一番左車線。おっさんが立っていた中央分離帯からは一番離れていたので
さすがに顔までは見えなかった。

でも俺は「あ、おっさんだな」と思ったのだ。

今思えば。このあたりからちょっとおかしかったんだと思う。

「こんな深夜に薄着でよく寒くねえなあ」
走りながら俺はそんなことを考えていた。2月の深夜。
俺は防寒装備でモコモコに着ぶくれていたし、手袋も二重だった。

それからふと気づく。なんで「薄着」だなんて思ったんだろう。
時速60キロくらいで無人の道路を走りながら、俺は視界の右端に
とらえた「おっさん」の姿を思い返してみていた。

薄着、そうだった。確かに薄着だと思ったんだ。おっさんの着ていた服は
パジャマかなにかのように薄く感じた。この時期の歩行者は
皆一様に着ぶくれている。特に上半身が着ぶくれているのでシルエット
としては下半身との間に大きな差がある。
なのに、さっき見た「おっさん」は全体的にえらい細く感じたのだ。
だから俺は「薄着」だと思ったのだ。

654 647 sage 2007/06/02(土) 16:19:20 ID:ndC234M50
そんな風に自分の中で思考をまとめながら走っていると
再び赤信号にひっかかった。対向車線にはトラックが止まっている。
こんな時間で、すれ違う車も少なくなってくると、普段は鬱陶しい
トラックのエンジン音や高い位置についたライトも少し頼もしい。

信号を見上げながらアクセルを少しだけあけてグリップヒーターの
熱を維持しながら、自分が吐き出す白い息を見ていると
その先の中央分離帯にまた人影がみえた。
最初、俺は「あれ?工事案内の看板かな」と思った。
なぜならその中央分離帯には横断歩道があるわけではないからだ。
だから、そんな中央分離帯に人がいるわけがない。
横断歩道のない道路を無理矢理渡ろうとしたが、対向車線側の
往来が激しくて中央分離帯で立ち往生するバカは時々いるが
こんな深夜のがらがらの道路で立ち往生するわけもない。

それに結構距離があって、おまけに明かりが乏しいにも関わらず

人影はさっきの「おっさん」だったのだ。

655 647 sage 2007/06/02(土) 16:36:56 ID:ndC234M50
深夜、無人の道路をバイクで走っているわけで、横断歩道のあった
交差点から、さっきの信号まではそこそこの距離がある。
1キロ以上は離れているはずだ。当たり前だが人間の足で
こんな短時間に移動できる距離じゃない。

同一人物ではないかもしれないし、たまたま同じような格好をした
おっさんがいただけかもしれないが、なんとなくそういう偶然を
否定する感覚が、俺の中にあった。

霊感とかそういうものではないと思うが、たとえば通勤の駅で
朝乗り合わせた人と、同じ日の帰りの電車でまた乗り合わせたときに
「あれ?今朝の人だ」と思うような確信感に近いかもしれない。
すれ違う時間こそ一瞬だが、通り過ぎるまで視界の片隅には
見えているわけで、少なくとも数秒は見ていることになる。
だから見間違いではない。

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