洒落怖
山がふるえる

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俺の住んでいる町は、四方を山に囲まれていて。
中学校の時に、そんな山に関連する話を聞いた。

「お前、日曜に山登ったか?」
教室でいきなり友人がそんな話を振って来る。
俺は先週も先々週も、日曜は家でゲームするか漫画読むかしかしていない。
「いや、お前山に居たんじゃないの?」
話が見えない。最初から話して欲しいと思う。
やや静寂。
「お前、山が増える話知ってるか?」
「は?」
さっきとは微妙に空気の違う静寂。

曇りの日や、朝早くには遠くの山々に霞がかかる。
そんな時、注意深く山々を眺めていると、おかしな事に気付く。
普段よりも山の頂が、一つ多く見えるのだ。
霞の日、山が一つ増える事が稀にある。

小中学校で、そんな話が噂になっているらしい。
怪談と言うよりも都市(村?)伝説の類になるかもしれない。
どっちみち、豪快な話ではあるし、小学生とかは好んでそんな噂を流しそうだ。

927 名前: 山がふえる2 2006/08/29(火) 16:57:40 ID:TJO81WXA0
「先週の日曜、小雨がパラついてただろ?」
まぁ、降ってたな。俺は漫画読んでたから関係無いけどさ。
「だから俺、役場の広場まで行って山を見てたんだよ」
っつうか待て。だから、の後に続けるセリフじゃ無いだろ、それ。
山が増えるとか何とかって話を間に受けたのか、お前は。
「増えてたんだよ!」
友人はマジ顔だった。
「あのな」
話の流れが不穏な方角へ流れそうだったので、俺は釘を刺しておく事にする。
遠くに見える山が幾つ見えるか、何て普段から数えた事が無いんだから、錯覚で一つや二つ増えたり減ったり見える事もあるだろうよ?
ツインピークス、双子の丘みたいな形の山頂だったら、山二つ分、と間違って数えちゃう事だってあるさ。
それに、山に霞がかった日ってのも問題だろ。視界が悪くなるんだから、ますます錯覚の可能性が増す。
いや、それを狙って「霞がかった日」なんて条件を噂に組み込んだんじゃ無いかね?
「増えてたんだよ!」
説得に失敗した。友人は同じセリフを繰り返す。
「絶対にいつもはあんな山、無かった! 断言出来る!」
「そうは言ってもなあ」
「だから俺、自転車で近くまで行ったんだよ!」
どこまでヒマなんだよ、お前は。

929 名前: 山がふえる3 2006/08/29(火) 17:00:15 ID:TJO81WXA0
>>912
スマン……終わったとばかり思ってた orz

二、三キロの道程を自転車で走破した彼は、彼が主張する所の「増えた山」の「一つ手前」の山の入り口付近に辿り着いたそうだ。
遠くに見える山ってぇのは、実際にはとことん遠くにあるものなのだ。
それでも、彼はその山の奥深くに続く小道(既に車では入れない細道らしい)に突っ込んでいったらしい。
一山越えて、幻の山まで辿り着くつもりのようだった。
何が彼をそこまで滾らせているのだろうか。その辺を追求した方がいろいろ有益なような気がしないでもない。
「で、その道の途中にお前が居たんだ」
「居ねぇよ」
ジョジョ第四部読んでたよ。小雨の山ん中で読めるかよ。
『俺』は五十メートル程離れた坂道の天辺で彼を見つけ、手を振ってきたらしい。
学生服姿だった。
いや、おかしいだろ?
「部活なのかなって」
卓球部員が雨の日曜に学生服で山奥をうろつく理由を教えてくれ。
おぉい、おぉい、と呼びかけあいながら、彼が近づいていくと『俺』はゆっくりと坂道の奥へ消えていった(らしい)。
待てよ、おい、……と自転車で坂道まで登った彼が見たのは森の中に消える無人の獣道だった――と言うシメだった。

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