田舎・地方の習慣
首の紋章

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私の父方の祖父は今年で齢90近くになるが今でも現役の漁師だ。
年一度、盆に九州の祖父の家に遊びに行った時は、
祖父と一緒に沖に出て釣りをするのが今でも恒例になっている。

私が小学5年の夏休みに、初めて祖父の家に遊びに行った時のこと。
釣りをしようと祖父の舟で、二人だけで朝方の5時に港を出てとっておきの漁場に向かう。
数十分して漁場に着いたので舟のイカリを降ろし、仕掛けを作って海に竿をおろす。
早起きしたせいかうつらうつらと眠たくなってきた私は、
祖父に「何か面白い話しをしてくれない?」とお願いした。
祖父は「うーん・・・」としばらく考えて、ハッと何か気付いた様子。
日焼けで真っ黒な顔をしわくちゃにして、ワハハと笑いながら言った。
「こんな話があるんだ」
祖父がまだ20歳そこそこで親父と一緒に漁してた時のこと。
その頃は大正・昭和初期で漁師達は品粗な小型エンジン船で沖に出て漁をしていた。
ある日、祖父の父が目の病が酷くなり病院に行くことになったため、
祖父が1人で漁に出ることになった。

392 名前: 二、 2006/07/28(金) 22:53:00 ID:C+FpdjMT0
漁場へ付いていつものようにイカリを降ろして準備を始めたところ、
船首前方の10M程先に何かプカプカ浮かんでるのに気付いた。
よく目を凝らして見ると、それは土左衛門だった。

今の世なら大騒ぎになるけどあの頃はホトケさんの数が結構多かったため、
それ程大騒ぎすることはなかったと言う。
それにこの地域の漁師の間には水死体を「オエビスサン」といって、
豊漁をもたらす神様として祀る信仰があり、
身元が分からないホトケを引き上げた漁師は村の道の辻に埋めて、
その上に塚を立てて弔っていた。

そんなこともあって、祖父はホトケさんを決まり通りに舟の左舷から引き上げる。
見るに耐えない姿で土色でブクブクに膨らんだ体、服もボロボロ。
当然身元など分かるわけがない。ただ、来ている着物や背丈から言って男のようだ。
さすがにこのままホトケさんを舟にあげたまま漁を続ける訳にはいかないので、
港へ帰ることにした。

393 名前: 三、 2006/07/28(金) 22:54:45 ID:C+FpdjMT0
よっこいしょとイカリを舟に引き上げようした。
ところがイカリが重たくてなかなか持ち上がらない。
ここら辺りは砂地なので岩に引っかかることはない。
不思議に思った祖父は服を脱いで褌一丁で海に飛びんだ。
イカリを見ると、何か絡みついている。
近くまで潜ってみると、ようやくそれが何か分かった。
女の髪がイカリに引っかかっていた。勿論、女はホトケさんである。
着物もボロボロで、長い髪の毛が唯一ホトケさんが女だとわかる材料だ。
これはさすがに気味が悪かったが、このまま置いて帰るのも申し訳ないと思った祖父は、
この海中の女を引き上げて舟に乗せ、そして港へ引き上げた。

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