田舎・地方の習慣
私も、いつか

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128 11/17 2011/06/02(木) 00:50:56.01 ID:nSHWcPHv0
舞台の上で祖父が板を5枚ほど外しました。
長方形に抜かれた板の下には丸い穴がありました。
穴の中は周りよりもひときわ暗くなっており底は見えません。
私達が立っている床板は円の半分のところまで来ており、
足元の半月状の穴は暗闇の中でも「黒い」と感じました。
祖母はまた「いろいろとありがとうね」と言うと
帯から縄をたぐって少し離れたところを祖父に手渡しました。

129 12/17 2011/06/02(木) 00:53:25.62 ID:nSHWcPHv0
「よろしくね」
「うん」
祖父は自分の右手を2回巻き、左手を3回巻きました。
その縄の続きを叔父、父が同じようにして、
自分も同じようにしました。祖父が
「おうい」
というとお堂の外から縄が引かれてたるみがなくなりました。
「じゃ」
というと祖母は着物の裾をちらりとひるがえして
私の視界から消えました。

131 13/17 2011/06/02(木) 00:55:28.16 ID:nSHWcPHv0
祖父、叔父、父、自分と一瞬ずつ遅れて体が引かれ、
縄が張ります。病で軽くなった祖母一人のこと、
最初には衝撃がありましたが無事に支えました。
すると、凧を上げるときのような、はちみつをすくうような、
布団をめくるような、静電気のような、
粘り気のある力で綱が引かれます。
自分のスニーカーが板とキュルという音を立てます。
ガクン、ガクン、ガクン、ガクン、ガクン、ガクン、
何度か連続して振動を受け、そのたびに
縄が軽くなっていきました。

134 14/17 2011/06/02(木) 00:58:38.55 ID:nSHWcPHv0
そして縄がスッポ抜けたように軽くなり尻餅をつきました。
顔を上げると祖父の上に祖母が覆いかぶさっていました。
頬は子どものように赤みが差し、胸はゆっくりと上下しても
「ぜーぜー」という音を出さなくなっていました。
祖母の縄を外し、自分と父とで打き抱えて車まで運びました。
体からは柔らかな温かみが伝わってきます。
髪の匂いを吸い込むと胸の奥が苦しくなるような
甘く濃い香りがしました。数百メートル抱いて運んだだけなのに、
自分の肩や背中等の触れていた部分が汗ばんでいました。

138 15/17 2011/06/02(木) 01:01:15.07 ID:nSHWcPHv0
家に帰ると祖母を布団に寝かせて皆で昼食にしました。
食事を終えて祖母の部屋の扉を開けると、
甘い香りが這い出してくるようでした。
皆で昔話などしながら祖母の寝顔を見ていました。
身動き一つなく、まつげ1本も震わせずに眠っていました。
そうしているうちに窓ガラスに夕焼けが差し始めました。
父が時計を見て、携帯電話から病院に電話をかけようとすると
玄関のほうから声がして、朝の病院の医師が入ってきました。

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