師匠シリーズ
目覚め

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その冬休みに、俺は実家に帰省した。洗濯や食事の準備などしなくて済むという実家の有りがたさを味わう日々だった。
ある夜、自分にあてがわれていた和室に布団を敷いて寝ていると、夜中に目が覚めた。
天井に木目が薄っすらと見える。豆電球に照らされているのだ。だんだんはっきりしていく頭で、ここがアパートではなく実家だったことを思い出す。
また目が覚めてしまった。ここしばらくはなかったのに。
頭を動かすのもめんどくさくて、眼球だけで周囲を見回す。すべて布団に入った時のままだ。俺が家を出たのを幸いに家族が荷物を放り込み、ちょっとした物置状態になっている。
そのごちゃごちゃした衣装ケースや段ボール、使わなくなった棚などが、時が止まったようにひっそりとたたずんでいる。
それを見るともなしに見ていると、自分の中に、ある感情が湧いてくるのを感じる。
まただ。

954 目覚め  ◆oJUBn2VTGE ウニ 2010/12/17(金) 23:36:31 ID:1sx/PKqt0
どこからともなくやってくる、正体の分からない恐怖心。なにが、ではなく、ただ、怖い。
そんな時は枕元の眼鏡を探したくない。何かが見えてしまうよりも、ぼんやりとした夜の海の底の世界の方がまだましだった。
しかし次の瞬間、師匠の言葉が脳裏に蘇る。
『夜中急に目が覚める理由なら知っている』
…………
確かにそう言った。
夜中に目が覚めて、どうして目覚めたのか分からない時がある。レム睡眠とノンレム睡眠の繰り返しの中で、目が覚めやすい時間があるのか、あるいは自分でも気づいていない疲れで、眠りが浅くなることもあるのかも知れない。
しかし師匠はこう言うのだ。
『夜中に急に目が覚めるのは、家の外に誰かが訪ねてきているからだよ』
その言葉には、世の中の目に見えない真理を照らしているかのような妖しい響きがあった。
布団の中で固まったまま、呼吸が少し早くなる。
静かだ。
何時くらいだろう。壁の時計は部屋の奥だ。豆電球の明かりでは暗くて見えない。
師匠の言葉の意味を考える。
誰かが家の外にきている。だから目が覚める。
そんなことを考えたこともなかった。夜中目が覚めても、理由がなければまた眠るだけだ。わざわざ外を見に行くこともなかった。
なのに。
心臓の音が体内に響く。布団が重い。のしかかるように。
俺はゆっくりと身体を起こす。眼鏡はすぐそばにあった。空気が粘りつくように部屋を覆っている。
恐怖心。
いつもの、ただ夜を恐れる原初的なものではない。もっと、なにか、忌わしいもの。
ゆっくりと立ち上がり、摺り足で畳の軋む音を聞く。
キシ……キシ……キシ……
庭に面した窓のあたりは板張りになっている。窓に掛かった重いカーテンが外と、内とを閉ざしている。
息をのんで、そっとカーテンの生地を掴む。窓の端から外を覗き込む。

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