師匠シリーズ
引っ張る

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「埋めたといっても、元の場所に戻してきただけなんだけどね。」
??が頭の中で交差する。
「子供ってのは実は比喩で、ソイツは単なる石なんだ。」

「へ…石?」

「そ、僕から生まれた石。」
僕の一部、と溜め息をつきながらハンドルを切る師匠は、もう説明が面倒臭くなった様な顔をしている。
益々こじれて思考を放棄しそうになる俺の頭を沈めたく思い、次なる師匠の言葉を待った。

「あ、アイス買ってく?」

提起した話題に全く無責任な師匠に腹が立ったが、確かにアイスは食べたかった。

119 引っ張る 5 sageウニ 2007/10/17(水) 03:36:08 ID:vOR1i94rO

コンビニで買い物を済ませ、再び発進した車内でアイスを頬張りながら師匠は続ける。

「結構有名なスポットにあった石だよ。ソイツを拾って家に持ち帰った。始めは何て事なかったんだが、途中でマズい事になった。」

どうマズかったんです?という俺の問いに、師匠は珍しく沈んだ調子で答える。

「引っ張るんだよ。」

魂を。

ポトリ、と棒アイスが溶けて生足に落ちた。声を上げそうになるのを堪えて、次の言葉を待つ。

「マガタマって知ってるかい。」

聞き慣れないが、いつか聞い事がある様な気がする。「勾玉」と書くらしい。

「日本古来から存在した装飾品の一つでね。言わば魔除けとして当時の豪族らは必ず身に着けていた。」

歴史の教科書か何かで見た事ないかい?と続け

「コの字ともCともつかない、真ん丸に短い尾が付いたような形をした緑っぽい石だよ。」

何となく頭に描くと思い出せた。僕は、TVで見た事がある。

120 引っ張る 6 sageウニ 2007/10/17(水) 03:36:52 ID:vOR1i94rO

「その形状の由来にはいくつか説があるみたいだけどね。獣の牙を表しているだの、大極のシンボルだの。その用途意外の真相は今じゃ知るよしも無いんだが…」
僕には生まれる前の胎児に見える。そう言う師匠の横顔は最早見えない。
車はいつの間にか光も何もない山道に差し掛かっていた。真っ暗な森の中でチカッ、チカッと何かが光った様な気がして窓外を凝視してしまう。

「そんなモノが一体何処に落ちてたと思う?」

「え…、だから、心霊スポットでしょ?」

素直に俺が応じるとフン、と鼻から息を漏らす音が聞こえ、したり顔をした師匠が想像できた。

「まぁ大きく分けるならそうだね。でもこれから向かう場所は自殺の名所なんだ。」

魔除けの道具が落ちている自殺の名所。何ともアイロニーに満ちた場所を想像し、気分が悪くなった。

121 引っ張る 7 sageウニ 2007/10/17(水) 03:38:53 ID:vOR1i94rO

急な坂道に唸りを上げる600CC程のエンジン、次第に道幅も狭くなり師匠はゆっくりとブレーキを踏む。

エンジンを切ると、いくつかの虫の鳴き声だけが聞こえて来る。真夜中の森は静寂に包まれていた。
ここからは歩いていこうか、と言う師匠の言葉に従い、俺達は懐中電灯を片手に夜の山道を歩きだした。

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