師匠シリーズ
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その後の顛末は、また別の機会に話そう。この少女が持ち込んだ事件は、簡単に語れないほどやっかいな事態を引き起こして行くのだから。
そのためにはもう少し、それに関わる過去を掘り起こす必要があるだろう。
ただ、一つだけ付け加えることがある。
その土曜日から数日後、俺は古本屋に立ち寄った。
そこでふと思い出してルブランのルパンシリーズの小説を探してみた。また読みたくなったのだ。だが、なかなか見つからない。
うろうろと店内を歩き回ることしばし。盲点だった入り口近くでそのコーナーを発見した。
174 引き出し ラスト ◆oJUBn2VTGE ウニ 2009/02/22(日) 23:54:49 ID:vbLvaS0Q0
しかしそこにあったのは南洋一郎の翻訳による子ども向けのルパンシリーズだったのだ。がっかりしながらも、小学生のころに何冊か読んだことを思い出して懐かしくなり一冊抜き出して手に取ってみた。
やっぱり今読むと平仮名が多く、表現も容易でなんだか違和感がある。
くすぐったくなり、棚に戻す。
そしてその近くのあったタイトルが目に留まった。
それを見た瞬間、笑い出してしまう。だって、おかしいから。
あの時カレー屋で、音響が驚いたわけが分かったのだ。俺が「オーレリー」と呟いた時だ。
緑の目の令嬢とでも称えるべき瑠璃の容姿をあげつらった俺に対し、音響は「どうして知ってるの」と言った。
同じルパンシリーズを読んでいる人間だと、お互いここで分かったわけだが、その時の彼女の言葉のニュアンスは、俺がそう受け取ったように「どうしてあなたもその小説を読んでるの」という単純なものではなかったらしい。
そこには、ある隠された真実を一目で見破られたことへの驚きが込められていたのだ。
俺は笑いながら、そのタイトルの背表紙を棚から抜き出す。通り過ぎる客が変な目でこっちを見ている。
本の中身を確認して、「やっぱり」と思った。
ドラえもんも見てないくせに、ルパンシリーズは読んでるなんて生意気だと思ったのだが、どうやら早とちりだったらしい。音響は、この子供向けの南洋一郎訳のシリーズを読んだだけだったのだ。
俺が別の翻訳家による邦題、『緑の目の令嬢』として記憶していた本を、彼女は南洋一郎の翻訳によるタイトルで覚えていたらしい。
頁を閉じ、薄く埃を被っているその本の表紙を軽く息で吹く。
『青い目の少女』
なるほどね。
また、笑った。

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