厳選怖い話
ムシャクル様

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495 本当にあった怖い名無し 2010/08/06(金) 23:03:59 ID:Q7CX8gv80
その音を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立った。なにがどう、とは説明できないが、他のいつでもない今、他のどこでもないここに、他のだれでもない自分が居ること自体に、絶望的なほどの恐怖を感じた。個室の中の「なにか」に気付かれたらおしまいだ、と思ったそうだ。

腰が砕けそうになるのをなんとかこらえつつ、音を立てないように細心の注意をはらいつつ、廊下とトイレとを隔てるドアにたどり着いた。ドアノブにかけた手に体重をかけ、なんとか身を支えているAさんの耳に、今度は廊下から奇妙な音が聞こえてきた。

496 本当にあった怖い名無し 2010/08/06(金) 23:05:15 ID:Q7CX8gv80

ドアの外で、誰かが飛び跳ねている音がする。

しかも、飛び上がってから着地するまでの間隔が、異常に長い。Aさんが言うには、棒高跳びのような感じだったらしい。
直感的に、今外に出ると、ここに居るより怖いことが待っている、と感じた。外に出られず、しかしトイレの中になど絶対に居たくない。

どうしようもなくなったAさんの中で、なんの前触れもなく、突如感情が爆発した。ドアの外、廊下で飛び跳ねている「なにか」に対して、押さえようのない怒りと殺意を覚えた。
Aさんは何故か、この状況は、外に居る「なにか」のせいだと確信していた。外に居る「なにか」を殺さなければ、自分は死んでしまう。外に居る「なにか」を殺せば、自分は助かる。ならば、その「なにか」を殺すことに、なんの遠慮をすることがあるだろう。

497 本当にあった怖い名無し 2010/08/06(金) 23:06:31 ID:Q7CX8gv80
ドアを蹴破るようにして開け、外に飛び出した。廊下に仁王立ちのまま、千切れんばかりに首を回し、八方を見回したが、殺せそうな生き物はなにも居ない。
次に、床に這いつくばり、ちいさな「なにか」を探した。が、なにも居ない。はじかれたように跳ね起きて、窓の外を見ても、鳥の一羽も居ない。

この時Aさんは、涙が止まらなかったと言う。外に居る「なにか」を殺さなければいけないのに、何故なにもいないのか。なんでもいい。誰でもいい。どんな生き物でもいい。
何故私に殺されてくれないのか。このままでは、私が「なにか」に殺されてしまうじゃないか。どうしてくれるんだ。

498 本当にあった怖い名無し 2010/08/06(金) 23:07:40 ID:Q7CX8gv80
涙をぬぐいつつ、冷静になろうと試みたAさんに、天啓がひらめいた。

あのババアを殺せばいいんだ。あいつは嫌な奴だし、それに弱そうだから、多分簡単に殺せるはずだ。

思いついたとたん、こらえようのない笑いがこみあげ、次の瞬間には大声で笑っていた。ようやっと「なにか」を殺せることに、たまらない愉悦を感じながら、玄関を目指して走り出した。

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ムシャクル様